むさじー

ホリデー 有銭無罪 無銭有罪のむさじーのレビュー・感想・評価

3.6
<法の平等を訴えた脱走劇のてん末>

1988年のソウル五輪開催のために、近隣を一掃しようとする政府への抗議活動の罪でガンヒョクは逮捕され、弟は警官に射殺された。刑務所には射殺した警官アンソクが副所長の職で現れ、虐待を受ける。そんな中、移送される車両で仲間の囚人と結託して刑務官を襲い脱走に成功した。そして富裕層を優遇する韓国の法制度に一石を投じようと奔走するのだが‥‥。
実際に起きた「チ・ガンホン脱走事件」を基にしているが、エンタメ性を意識したフィクションに傾き過ぎた嫌いがある。何と言ってもチェ・ミンス演じるアンソクが強烈な悪役キャラで、ドラマチックにはなったが法制度の不備を訴える志よりも復讐譚の色合いが強くなり、実話のリアリズムは薄まった気がする。
また、彼らが人質から悪い人でなく可哀そうな人として同情を集め、世論を動かしたことで悪法廃止にこぎつけたものだが、ガンヒョクの叫びには共感するものの実話として響くものは今一つだった。そして、描きたかっただろう脱走仲間の“熱い情”についてもやや物足りなく思えた。
とはいえ、社会性を持ったテーマをエンタメに昇華させようという意欲は十分感じられるし力作ではある。実話と切り離せば面白く観られるかも知れない。
タイトルの『ホリデー』は最後に流れるが、実在の主人公が好きだった曲らしい。意味不明の歌詞ながら青春の憂いを帯びたビージーズの曲だが、緊張した日々の中でホッとする、安らぐ曲だったのか。そう思うと切ない。
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