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52ヘルツのクジラたちのmasayaのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.0
傷付いた者の声はか細く、誰にも気づかれない。同じように弱き者だからこそ気づけたSOSを、何としても拾い上げたい。かつて救ってくれた誰かのように。
格調高く雰囲気映画化することも出来ただろうに、原作の渾身を余さず映像化することを選んだ。覚悟が決まっていた。

この社会で誰からの助けも得られず孤独なたたかいを強いられている人々を描く、決して軽い作風ではない映画。SOSを発することが出来るか、そのサインに気づけるか、気づいた時に何が出来るか。一人一人は無力だとしても、互いに差し出す手はある。救われた命で救える命があるかも知れない。

どのような心身の暴力を受け、どのような状態になるか、それをぼかしても映画は作れただろう。この映画は原作同様、避けない選択をした。ストーリーは重くなり、歩みは遅くなる。それでも観客に直視させた。これは気づかないだけでどこかで実際に起きていることだと。

「市子」でトップクラス演技派女優に躍り出た杉咲花さんは言うまでもなく、志尊淳さんが良かったなあ。他の俳優さん含めて、全体的に演出が濃ゆ目だったんだけど、原作の作風が基本こんな感じだったのでそれで正解だ。



内容はじっくり咀嚼するべきなので、個人的に注目の地元大分&北九州ロケについて。佐賀関を中心に別府湾岸各所を組み合わせて撮られた大分ロケ。キナコの家からの下り坂や港の風景など美しい海辺の町として映し出されていて満足度高い。北九州ロケは少しだったけど観覧車のシーン良かったな。ロケ地の真下の映画館で観ると言う稀有な体験。
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