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台風クラブ 4Kレストア版のryosukeのレビュー・感想・評価

台風クラブ 4Kレストア版(1985年製作の映画)
3.8
 物語はとりとめのないエピソードの連なりなのだが、夜には深い闇に包まれる日本の田舎町を美しく切り取るロングショット長回しを、疾走し踊り狂うジュブナイルの衝動で満たした画面を見ているだけで楽しい。ファーストショットの暗緑色のプールや、健が「ただいま」「おかえり」を繰り返しながらドアを開閉するシーンの、小高い丘に建つボロ家の詩情等、印象的な画を数えればキリがない。
 窓の外を眺める美智子(大西結花)のハッとするような美しさ。背中の消えない傷もその神秘性を増幅しているようだ。教室において、彼女がその潔癖な性質を発露し教師に迫るシーン(三浦友和の適当な雰囲気が好対照になっている)、どこか異質な印象を醸し出していた美智子による風の強い日の反乱は、正に台風の目という趣で、彼女が秘めた特殊な力によって教室全体が崩壊していく。
 美智子が校舎内で健に追い詰められるシーンなど、突然サスペンスフルなテイストになることに物語上の必然性も感じられず、奇妙な代物になっている。若きリビドーの爆発と共に、「おかえり」「ただいま」が回収される。あるフレーズに取り憑かれた男とドアを破壊する描写から、日本版『シャイニング』という趣もある(この撮り方、安全管理大丈夫なのかと思ってしまうが相米だし......。)
 三上が、梅宮に対して、電話越しに「あなたを認めない」と伝えると、梅宮は、「(お前の純真な魂は)あと15年の命」だと宣告する。梅宮のセリフは、青年期に、ごく短い期間にだけ宿る何かに関する一片の真実を含んでいるように思う。三上の真っ直ぐさは、あの日の教室で美智子が示した精神と響き合っているかのようだ。
 雨風が止んだ屋外に出て水たまりで遊んでいると、ふいに校舎の照明が明滅して静寂が訪れ、続いて、嘘のようなスピードで画面右側から豪雨が迫ってくる。次第に、雨は降り注ぎながらも音を失い、音響は歌にフォーカスされ、しばらくするとまた雨音が帰ってくる。固定ショット・ロングテイクの内部の状況を強引に、ダイナミックに捻じ曲げる。そして、疎外されていたように思える東京パートの理恵は、同じ歌を介して三上と接続される。商店街の中、ペアでぐるぐる巻きにされた二人がオカリナを吹きながら左右に滑る。椅子が積み上げられ、千羽鶴が垂れ下がる教室。
 最後にもう一つ、衝動的な運動が準備されている。この運動を引き起こすのは、若者特有の現実的な問題から遊離した死への憧憬なのだが、「個と種」をめぐるセリフに表れていた三上の思弁癖からして、この憧憬を三上が体現するのは必然なのだろう。「厳粛な死」を見せようとした三上の決意は泥から突き出した二本足に結実してしまう。この突き放し具合。「もしも明日が晴れならば 愛する人よ......」の歌で三上と繋がったはずの理恵は、台風一過で晴れた道を爽やかに歩み、何も知らずに三上の死地(死んだと解すべきだと思う)へと向かっていく。何やら切ない感触のラスト。
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