ヒノモト

彼方のうたのヒノモトのレビュー・感想・評価

彼方のうた(2023年製作の映画)
4.1
『ひかりの歌』『春原さんのうた』の杉田協士監督最新作。

書店員の春は駅前のベンチに座っていた雪子に道を尋ねるふりをして声をかけ、雪子の醸し出す悲しみを見過ごせずに、関係を築き始める。一方で春は剛の後をつけながら、様子をうかがう行動を続けている。子供のころの繋がっていた記憶と悲しみが、再び交流を再開するこで動き出す状況の変化や感情の行方を描く作品。

杉田協士監督作品を自分の言葉で言語化するのはとても難しいのですが、それでも過去2作は短歌というベースがある分、そこから想起することができたのですが、今作は全くのオリジナルのために、物語の骨子を見いだすのは若干難儀するところがありました。

しかし、過去作と同じロケ地が当たり前のように生活の場所として出てきたり、登場人物も同様のことがあり、1つ1つの映画が固有の世界ではなく、生活の中に溶け込んだ設定の嘘のなさが、映画全体に溢れていて、物語の特異さ、特別さというのが限りなくゼロに近いレベルで、日常と延長にある物語のリアリティに繋がっていること、このナチュラルさ、一見淡泊に見えるほどの映像の連続が映画という形になることは、かなり高尚な表現になっていると思いました。

目線や気づき、秘められた過去の悲しみを、時にはワークショップに参加して短編映画を作ったり、記憶の音を確かめにツーリングしたり、オムレツを作ったり、1人では消化しきれない問いを少しずつ、解きほぐしていく過程が繊細に表現されていて、それでいて90分以内で収まっていることの潔さ=編集の軽やかさも素晴らしかったです。

ここまで良いと感じてきたことは、今作単体というよりも連作のようにみえることで得られる部分も大きく、いわゆる心情の説明台詞や、過去のフラッシュバックというような映画を分かり易くしようとする仕掛けがないことで、エンタメ映画とは対極にある淡泊な映画に見えてしまう方がいても仕方の無いリスクを背負いながらも、前作『春原さんのうた』以上にその作家性の強い作風を貫いていることは、尊敬しかないです。

上映後に舞台挨拶があり、監督と主演の小川あんさんが登壇されて、貴重なお話を聞くことが出来ましたが、今作においても作品に描かれない背景だけでもう1作映画が出来る分のボリュームがあるほどのようで、その脚本づくりや、撮影における必然性のあるカメラの流れの的確さが反映された作品になっていることに、今作の美しさがあると感じました。

ブログには舞台挨拶時の写真もあります
https://ameblo.jp/hinomoto-hertz/entry-12835565598.html
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