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市子のkuuのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.8
『市子』 映倫区分 G
製作年 2023年。上映時間 126分。
『僕たちは変わらない朝を迎える』『名前』などの戸田彬弘監督が、自身の主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台『川辺市子のために』を、杉咲花を主演に迎えて映画化した人間ドラマ。
市子を杉咲が熱演し、彼女の行方を追う恋人・長谷川を若葉竜也が演じる。

川辺市子は3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則からプロポーズを受けるが、その翌日にこつ然と姿を消してしまう。
途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。
市子の行方を追う長谷川は、昔の友人や幼なじみ、高校時代の同級生など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうちに、かつて市子が違う名前を名乗っていたことを知る。
やがて長谷川は部屋の中で1枚の写真を発見し、その裏に書かれていた住所を訪れるが……。

杉咲花さんが主人公のミステリアスな女子・川辺市子を完璧に演じきっていたことに脱帽。
日本の戸籍制度が市子をいかに非人間的な存在にしてしまうかという重要なプロットに、日本人以外のは戸惑うかもしれない。
2015年に受賞した戸田の戯曲を基にしたこのエピソード満載の謎めいた今作品。
なぜ彼女が過酷な境遇に翻弄されて生きてきたんかを簡潔に説明している。
簡潔だが、解析が難しい謎で『市子』は終わっている。
1987年、大阪で市子が生まれたのは、母ちゃんがDV夫と離婚して300日以内のことだった。
元夫を自分たちの生活から遠ざけておきたかった市子の母・夏美(中村ゆり)は出生届を出さなかった。
そのため、市子は成人しても健康保険証ももらえず、定職にも就けず、社会的弱者として生きることになった。
因みに、無戸籍者てのは、その字の通り戸籍を有しない人のことを指し、日本では、戸籍法49条で『出生から14日以内に届出をしなければならない』って原則として定められてる。
出生届を出す義務のある人(親など)が何らしかの理由で出さないことにより子どもが無戸籍者になる。
この現代の日本でも、約1万人の無戸籍者がいると云われてるけど、あくまでも、この数字は推定にすぎず、実際はもっといるのではないかとも考えられてるそうな。
しかし、今作品はこの社会問題を扱ったドラマではない。
黒澤明監督の名作『羅生門』(1950年)の精神に近いちゃ近いかな。
同棲中の恋人、長谷川義則(若葉竜也)からのプロポーズを受けて失踪した市子の行方を追う無表情な後藤刑事(宇野祥平)に、知人、友人、恋人たちが少女時代からの市子との馴れ初めを語る。
彼女が、至福の3年間を共に過ごしたこの真面目で詮索好きな男との結婚を考え直しただけではないことはすぐにわかる。
ショックを受ける義則に後藤が言ったように、『市子は存在しない』
脚本を共同執筆した戸田監督は、無罪や有罪を決めつけるつもりはないのやろや。
市子は踏みにじられた天使でも、冷酷な悪魔でもない。  
運命と暗い行いによって、彼女は自分自身を人類の一般的な営みから切り離され、普通の幸福から追放されたと考えている。
子役時代から非凡な才能を認められてきた杉咲花演じる市子は、物静かやけど監視の目を怠らず、好かれ愛されることに喜びを感じながらも、自分の真実を明かすことに警戒心を抱いている。
その演技は多くの人を惹きつけるやろし、心を揺さぶられました。
今作品のあえて正義ってのをかざすなら、杉咲花の演技に称賛することかな。
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