ゴン吉

ほかげのゴン吉のレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
4.2
終戦直後の混沌とした時代を生きる人々を孤児の目を通して描いたヒューマンドラマ。
塚本晋也が監督を務め、趣里、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛らが共演。 

孤児の少年がカボチャを盗んで人に追われて居酒屋に逃げ込んでくるが、横になっていた居酒屋の若い女将は何も言わずに見逃してくれる。女将は居酒屋を営みながらも体を売って無気力に生きていた。ある晩、誠実で人の良さそうな若い復員兵がやってきて一晩彼女を買う。しかし彼は酒を飲んだ後にぐっすり寝込んでしまう。復員兵はもと小学校の先生だという。翌日、復員兵は金を作って来ると出ていくが、金を持ち帰ることなく戻って来る一方で、少年は野菜や卵を持ち帰る。そんな日が何日も続き、若い女将と若い復員兵と少年による疑似家族のような関係ができるが、口先だけで働きもせずお金を持ち帰らない復員兵に対して流石に女将も怒って出ていくように言うと、復員兵は逆切れして女将と少年に暴力をふるう....  

終戦直後の混沌とした時代の人々の生き様を描いた作品。
人は上辺だけでは、本当の姿は分からない。優しそうな元教師の復員兵、立派な人物のようにみえる年配の男性、強盗に入るかに思える半グレの青年などを通して、人間の表面と内面のギャップを見事に描いた重厚なヒューマンドラマが繰り広げられる。
人は置かれた状況によって豹変する。
そして終戦によって価値観が一変し、生きる希望も活力も失った若者たちが虚しい。
「この服はいい服ですか?もともとは高いですか?」 
女将が少年に残した言葉が心に響く。
「坊や しっかり生きてね 危険なことしないで ちゃんと働いて 食べるんだよ」 
地獄のような戦争を生き延びた人々を待っているのは虚無しかないのか?
何度も殴られて顏から血を流しながらも、懸命に闇市で皿を洗う少年が健気で涙を流さずにはいられない。 

2024.5 配信で鑑賞
ゴン吉

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