ryosuke

戦慄怪奇ワールド コワすぎ!のryosukeのレビュー・感想・評価

4.4
 冒頭、素人配信者特有の痛々しさが中々リアルに出ていていいなと思っていたのだが、遥の演技だけは、どこか異質な、プロ的な演技で異物感をもたらしている。この違和感の正体は後に明らかになる。光が十分に差し込み、大して古びてもいない廃墟は、彼女らの軽いテンションもあってか、あまり怖くない空間なのだが、だからこそ、その一角に佇む奇妙な形状の祭壇とその周囲の淀んだ空気が際立つ。そして登場する赤い女。唐突に繰り出される、霊的な存在とは思えない最悪の全力疾走。
 胡散臭い霊能力者が電話の向こうから魔の抜けた呪文を唱えると吐瀉物が発射されるのだが、このふざけたテイストを常に維持しつつ、同時にある種の真剣な目線を観客に強いるエネルギーがあるのが凄いよな。強引に時空間を捻じ曲げるのはホラー映画に与えられた強力な特権なのだが、擬似ワンカット撮影の中で、突如自動車が夜に突入し、車内に赤い女を召喚するシーンは、その出鱈目さに度肝を抜かれた。
 工藤がセクハラを指摘されるシーン。この種の企画に情熱を燃やす男性によく見られる「有害な男らしさ」だと思うのだが、本作の工藤は、その男性性を発揮しようとするたびに、常に情けないポジションへと落とされる(股間に膝蹴りを入れられる描写が象徴的)。単にTikTok配信者を描くだけでなく、しっかり時代と組み合おうとしているのを感じ、フェミニズム映画批評の領域から、伝統的にその女性表象を批判されてきたホラーというジャンルの抱える問題に自覚的なのだとも思う。そしてこれは単なるディテールにとどまらず、物語の本筋に食い込んでいる。工藤のような男性のトキシックな側面が増幅した後に何があるのか、未だ些細な問題として扱われがちな事柄が根底でどれだけの巨悪に接続しているのか、「同じ顔の男」のエピソードが端的に示している。時空ジャンプを駆使しつつ性加害のトラウマを浄化するための物語でありながら、過去からパラレルワールド工藤を連れてきてしまってチープな特殊効果の妙な技を放出させたりする独特のバランス感で軽妙に魅せる。
 赤い女が仲間になるのは最悪のシチュエーションだが、目的が一緒ならしょうがない。邪悪な何か、死のイメージの接近と転がるボールの取り合わせは、フリッツ・ラング『M』、マリオ・バーヴァ『呪いの館』、ニコラス・ローグ『赤い影』等ホラー映画の定番だが、見終わって考えてみると、性犯罪者の接近を知らせるボールだという点で、直接的には『M』の引用だと考えるべきなんだろうな。いきなり召喚された呪術廻戦に出てきそうな化け物が結局敵を食べちゃうのも脱力する。
 珠緒師匠のキャラはどうも漫画的、アニメ的だけど、そもそも本作のリアリティラインが地の底なので、素直に素敵なキャラだと思った。師匠に収益の50%が入ると思うと喜んでお金を落としたくなる。第4の壁を突き破って応援させてくれるので、映画館で見てよかったな。
 ホラー映画の、本筋とはあまり関係がないけど、とりあえずデカい飛行物体を闖入させておけという感覚が好きなのだが(黒沢清『回路』ランベルト・バーヴァ『デモンズ』とか)、本作の、雑に伏線を回収して強引に世界を終わらせる適当なマインドもまた微笑ましかった。
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