MasaichiYaguchi

さまよえ記憶のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

さまよえ記憶(2023年製作の映画)
3.6
映像作家の野口雄大さんが実体験をもとに脚本・プロデュースも務めた映画監督デビュー作は、人にとって大切なもので、時に苦しめるものでもある「記憶」との向き合い方を切なさを交じたファンタジーで描く。
行方不明になった息子の隆を捜し続けている詩織は、いなくなってから3回目の隆の誕生日を迎えた時に「欲しい情報」と「それに見合った価値のある記憶」を交換できる力を持つという「情報質屋」の女性と出会う。
一方、詩織の父・英樹は、娘が過去に縛られて生きていることを心配し、今を生きて欲しいという思いから彼女を守ろうと考えている。
父のその思いを感じながらも、息子に再会したい詩織は、自身の「大切な記憶」を情報質屋に預けてしまうが、果たして願いは叶うのか。
人間は成功したことの記憶や、良いことがあった記憶だけを残そうとし、失敗したことや、思い出したくない記憶をできるだけ取り除きたいと思う。
それでも掛け替えのない人を喪失した思いは、どんなに辛くても拭い去ることは出来ない。
このところ戦争、自然災害、事件や事故で、多くの命が失われ、喪失感が社会に漂っていると思う。
本作は「記憶」をモチーフに、それとの向き合い方を我々に投げ掛けているような気がする。