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ザ・クリエイター/創造者のシネマノのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.9
『SF映画のニュースタンダードとなり得る映像世界がここにある』

公開前より絶賛評が集まっていた本作を、劇場の大スクリーン(もちろんIMAX)で鑑賞。
自分も大好きな【ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー】(16)のギャレス・エドワーズ監督作品だからこそ、期待も高かったが…
これが全SF好きに捧ぐ、オタク魂 × 低予算 × 超スケール × 前人未踏の映像世界まで、全て叶えてしまう作品が生まれてしまうなんて。

本作が絶賛されている理由の最たるものに、「低予算(※ハリウッドにおけるSF大作と比較して)で超スケールのオリジナルSF作品が生まれた」というものがある。

そもそも、映画もビジネスであり、監督発信の理想の企画が通るものなどそうそうない。
それを通すために、ギャレス監督は、先に映像素材を撮り溜めることから動いた。
アジア諸国の美しい映像を撮影してから、形にしたいドラマを提案して、予算を勝ち取った。

そこには確固たる自信がある。かつて、【モンスターズ/地球外生命体】(10)で、同様の手法とベッドルームでの編集によって傑作を生み出した実績があるからだ。
当人がVFXの最先端をゆく者であり、最速ペースで映画人の夢である【スター・ウォーズ】シリーズ(しかも傑作)を作った成功者でもある彼が、原点に立ち返る手法で、オリジナルSFに挑むのだ。
これに降りた予算は、近年のSF大作においておよそ半分だったとのこと。

しかし、予算の使いどころに間違いはない。
家電量販店でも買える(あまりカメラには詳しくないが、誰でも手に入れることのできる物らしく、それがロマンをかき立てる)カメラを使い、
キャスト、撮影、音楽、そして編集…一流の使いどころは何一つ間違えず、制作の細かなところはすべて自分で指揮する(やれてしまえるのが素晴らしい)。

出来上がった作品は、生々しくもかつてない映像が広がる。
(ノマドの照準表現、恐ろしいが好きだ)
信仰(過去から続く)、戦争(悲しきかな、現代)、AI(かろうじて、未来)。
過去・現在・未来、ギャレス監督が触れてきたカルチャーが、まるでカオスな闇鍋のように混ざっているが、映し出されるのは生々しいまでにリアルだ。

そして、トドメにAI側のアクターに求めた演技は、「難しく考えず、人間のまま」。
楽しくて笑い、悲しくて涙し、慈しみとともに愛す。
AIも、人が特権や特長として誇示していたものをすべて、なんの誇張や違和感もなく持っている世界が、そこにある。

そんな世界で人とそうでないものを別つものは、いったいなにか。
いや、別とうとする思想こそが人間のみが持つものであり、そしてそれは果たして正しいものか。
展開するドラマに斬新さや、革新は確かにないかもしれない。
しかし、やがてくるであろう時代に対して美しく、見応えあるドラマが展開される。

最速で、自らの夢を叶えてしまった監督が、その先で生み出した映画。
自らの過去と現在、そしてそれが映画の過去と未来までをつないでしまえる作品であること。
これだけ実績あるIP作品しか人に観られない世界において、オリジナルSF映画でそれを叶えてしまうなんてロマンじゃないか。

本作に寄せられる、劇中のドラマが革新的でなかったという批評。
この先、優れたアイデアをもとにしたドラマはどんどん出てくるであろう。
しかし、それを形にするための土台が確かに本作にあった。

▼邦題:ザ・クリエイター/創造者
▼原題:The Creator
▼採点:★★★★★★★☆☆☆
▼上映時間:133min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞(IMAX)
▼鑑賞劇場:T・ジョイ PRINCE品川
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