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ザ・クリエイター/創造者のnatsuoのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.5
「濃厚なSFを下地において描かれるものとは」

SWが大好きな自分はもちろんローグ・ワンも大好きで。まだファン歴が浅かった自分は、劇場で観たSW作品が2作目だった(いや、実はママズシアターで3を観たらしいが全く記憶にない)。そこで観たあのスカリフの綺麗すぎる映像の衝撃といったらない。今までもこれからもSW作品においてスカリフの戦い以上に美しい戦闘シーンは無いだろうと断言していいくらい素晴らしすぎる映像美だった。もちろんROはそれだけではなく、個人的推しポイントはクレニック長官。あの映画でベン・メンデルソーンさんが好きになったのだが、自分は一時期クレニック狂愛者だった(SWBF1ではずっとクレニック使ってた。1人だけリボルバーなんよ。リロードがかっこよくて...(誰がわかる))。ヴェイダー登場シーンは死ぬほどカッコよかったし、Uウイング(UT-60D Uウイング・スターファイター)とかTIEストライカー(TIE/sk x1試作型制空戦闘機)も好きなデザインだし、チアルートドニー様もイカすし、全戦闘シーンまじ良すぎるし...。
そんなローグ・ワンや、ハリウッド版GODZILLA(1作目)の監督ギャレス・エドワーズさんが新作SF映画を監督。ROより実に7年。ようやくの新作って感じでカムバックしてきた(実際ROは交代騒動など諸々あったのでもっと長いのかも)。


AIが非常に普及し人間にとって欠かせない存在となった現代。人間はAI開発を進め続け、互いに共存できる社会を築き上げていた。AIは感覚を、心を持ち、人間と変わりのない存在、模造人間(シミュラント)も生まれる。AIと家庭を築く者も出るほど社会に深くAIが浸透していたある日、AIがロサンゼルスで核を爆破させおよそ100万人が亡くなるという事件が発生。アメリカを中心とする西側諸国はAIの使用を全面禁止する。しかしアジア圏("ニュー・アジア")ではAIの使用を継続し、共存する世界を実現させていた。それを疑問視した西側諸国はニューアジアを攻撃したことで、西側諸国VS東洋諸国、人間(米軍)VS AIの10年に及ぶ戦争状態が始まった。西側諸国はAIの創造者(クリエイター)、"ニルマータ"を捕らえAIへの報復を企む。その任務を請負いニューアジアのとある村に潜入捜査していた米軍兵士ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、現地の女性マヤ(ジェンマ・チャン)と恋に落ち彼女のお腹には子供も授かっていた。しかしある日、米軍がその村に攻撃を開始。"ニルマータ"の存在が確認できなかったジョシュアは攻撃を止めるよう通達するが、米軍の攻撃は止まない。そしてその攻撃によりマヤを始め村の仲間たち(渡辺謙も含む)を失ってしまうのだった。
それから5年。西側諸国は主要母艦であり人間の要である"ノマド"の圧倒的な力でAIに対し善戦を繰り返していたが、AI側はそのノマドを破壊することのできる強力な兵器(アルファ・オー)を製造した。この情報を入手した米軍は、アルファ・オーの破壊及びその創造者兼AI側リーダー ニルマータを確保するべくチームを結成。妻を失った喪失感に苦しみながら静かに暮らしていたジョシュアもこのチームに組み込まれることに。5年前亡くなったと思われたマヤだったが、つい最近目撃情報があったという。ジョシュアは、AIの活動を止める為、マヤを探す為、作戦に参加する。
アルファ・オーが保管されているニューアジアのとある小さな村を一方的に攻める米軍は、遂にその保管場所まで辿り着く。しかしそこへ現地警察(AI)が到着し激しい戦闘が巻き起こることに。 兵器確保を担うジョシュアは、遂にその元へ辿り着く。しかしそこにいたのはカートゥーンを見ているシミュラントの少女だった。ジョシュアは逃げる少女を確保しようと奮闘していたが、AIとの戦闘は激化しチームメンバーが次々と殺されていく。そこで米軍はノマドによる現地爆撃を決行。兵器(少女)研究施設を辺りの村諸共爆破し、跡形もなく消え去ってしまう。なんとか爆撃から逃れたジョシュアは、この少女を守りマヤに会う決意をする。少女は念力で電気を操る力があった。彼女の秘密を探り、ニルマータの元へ辿り着き、マヤに会う。米軍は脅威である少女を独断で確保したとしてジョシュアを追跡し、現地警察も彼を指名手配し各地で大規模な捜索を始めた。敵に囲まれ救いもなく逃げ回る2人。ジョシュアは少女を守りながら自らの目的を果たすことができるのか。ノマドを破壊し得ると言われる少女は一体何者なのか。そしてジョシュアは少女を守りながら自らの目的を果たし、マヤに再会することができるのか。2人の長く危険な冒険が始まる。

あらすじだけでもかなり長くなるほど前提がかなり多く(自分のまとめる力がないというのも一理あるが)設定がとても高密度で世界観を聞いただけでも非常にワクワクするタイプ。だから予告段階でめちゃくちゃ気になっていたし、何か新鮮な、そうSWやブレードランナー、マトリックスとは違った新しい世界を期待していた。
...しかし予想していたのとはかなり違った。あらすじでも書いた通り、本作はジョシュアの失った妻を探す物語に焦点が置かれる。SFの要素を深く描くことはなく下地として世界設定に留めるだけにし、作品のジャンル的にはロードムービーが全面に出てるイメージ。これは未鑑賞の人と鑑賞済みの人でかなりギャップが出そう(予告だけじゃよくわかんなかったもんね)。とはいえSFの世界観が薄いわけではなく、非常に良くできた設定と映像表現で、もう描かれる世界はとても濃口なのが前提となっている。その上にストーリーを乗せているといった具合だろうか。改めてブレードランナーと同じ世界観を2時間かけて描くことはせず、むしろそれを前提とした上で"愛"の物語を強く押し出したのが本作。

これが、個人的にはうーん...といった感じ。自分はもっと世界の方を深掘りして欲しかったし、話は複雑で考えさせられてもいいからロマン溢れるものを観たかった。正直ジョシュアの純愛ストーリーとかいらなかったし、マヤが生きていてもいなくても、会えても会えなくてもこれラスト感動しないだろうなって思って観ていた。聞くところによるとSF好き(SWオリジナルトリロジー世代やオリジナルブレードランナー世代の方々は特に)は少々辛口な意見だそう。ですよね(もちろん絶賛されている方もいらっしゃるしその方の意見も理解できます)。やっぱりここまで大々的にSF!AI!とか宣伝してるしビジュアルもそんな雰囲気を醸し出しているんだから、じゃあSFを描いてよーって、SFが観たいよーって思っちゃう。鑑賞中はもうそういう物語なんだって早々に割り切れればすんなり観れるんだが、終わった後のなんか違ったな感がどうしても拭いきれない。特にAI要素が、世界に浸透しすぎててどうも新鮮味が感じられないというか、せっかくのタイムリーなテーマが薄くなってて勿体無い。M:I7よろしくもっと脅威的に扱うべきだったんじゃないかな?(逆に米軍(人間側)を脅威的に描くのは面白いが、それだとAI至上的になるし、なによりそれってアバターやん笑) 世界観もどうしても30年前の傑作ブレードランナーを超えることはできず、結局それの真似事みたいに映ってしまったのが可哀想。どれもこれもどこかで観たなーっていう二番煎じ感が終始あったのがうーん...。なんとなくアントマン3を思い出すが、この手の映画を観に来る人は大体目が肥えちゃってる(僕はまだまだだが)んだから、逆に斬新さ、新鮮さで攻めないと!って思う。SFって80年代90年代で既にかなり熟成されてしまっているけど、やはりまだまだ描ける余地はあるだろうしそう信じたい。とはいえ監督がブレードランナーもSWもマトリックスも、当時SF作品に心を打たれてSFを撮るという決断をしたそうだから、その愛が感じられるととることもできるが。それならもっともっとオマージュ多用でいく!って意思をみせるべきなのかなー。こんなこと言うのは野暮すぎるが、同20thスタジオ映画であれだけネタだらけのトンデモ面白いフリーガイという子もいたんだから、無理ではないのだろう。どうしても二番煎じで中途半端感が残っていたのが残念だった。
他監督の名を挙げて申し訳はないが、きっとドゥニならもっともっと濃くもっと上手に描けただろうな...と思ってしまう(でもそしたら2049と同じになるけどね笑)。私はドゥニを敬愛して止まないのもあるが笑、2049もDUNEも傑作だったのは、非常に深いSF世界を一つ残らず描きながらストーリーに綺麗な一筋のラインがあったから。SFを貫き通しながらその世界にマッチした美しいストーリーがある。僕は2049を観る度にラスト、K(ジョー)が雪の中1人で仰向けになり、デッカードが自分の目的を果たし(ハリソンの)感動的な表情が映るシーンで大号泣してしまう。もちろんオリジナルブレードランナーのラストシーン(エレベーターに乗るシーン)もとても素敵で感動的なもの。ドゥニ作品に限った話ではないが、SF作品って中盤まで複雑且つロマン溢れる世界を描き、最後には清々しく幕引きをすることで、後味を残しながらもどこかいいもの(世界でもあり作品でもある)を観れたなって感動できるところが個人的には好きなポイント。SWが大好きなのも、世界が非常に深くてワクワクさせられるけどそれに負けないくらいしっかり主人公(ルーク,アニー,レイ)の軸があるから。EP6ラスト、ヴェイダーとの決着の後にルークがパルパティーンに向かって放った一言は正にジェダイとしての成長を魅せた感動的なシーンである。EP3ラスト、アニー(ヴェイダー)VSオビワンは絶望を感じつつも、やはり双方に心を動かされずにはいられない。世界観はもちろんとして、それに匹敵するくらいキャラクターもキャラクターとして魅力があるのが面白いSF作品なんだろうなって思う。本作はその点、主人公にもマヤにもそこまで魅力を感じなかったのは残念だった。強いて言うならレベルになってしまうが、アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)とハウエル(アリソン・ジャネイ)はめちゃくちゃよかった。なんか、役としていいというのもあるが、キャスティングが素晴らしいなとは思った。アルフィー役のマデリンさんはめちゃかわいらしいし演技上手だし、今後がすごい期待できる。初々しい冒頭から、段々と成長して"人間"になっていく様は素敵だった。ハウエルはもうアバターの大佐すぎて逆に好きだった。正にアメリカイズム的なあの感じ。キャラも立っていたしアリソンさんのハマり具合も絶妙で良かった。絶対現実にあっちゃいけない存在だけど、こう映画としてエンタメとしてああいうキャラは大事笑。改めて、アバターの大佐万歳。ああと、G13とG14?あいつらは素晴らしいね。これはぜひ劇場でご覧になって欲しいところ。
1番言いたいのは、人間と人間の愛を描くのは流石にNGでしょ、ということ。ジョシュアとマヤについてだが、どちらも人間というのは完全にミスだと思う。ブレードランナーとモロ被りでもいいからそこは片方をシミュラントにすべきだったし、そうでないと主軸となってる愛の話が何も面白くなくなってしまう。アルフィーがシミュラントなのはよろしい。そりゃもちろんそうじゃないとね。でもジョシュア マヤが双方純人間なのはまずいでしょう。敢えてにしても結局上手く描けていた訳でもないし、そうしなかったことでマイナスになってしまった部分が大きすぎると思う。この決断は誰がどうしてしたのかわからないが、自分はよくないよって言いたい。

でもやっぱ映像音響はピカイチだった。7年前、ローグワンで自分をブッ刺したあの映像美はちゃんと顕在で、美しく素敵な世界が僕を包み込んでくれた。奮発してIMAXにした甲斐はあったと思う。今年は映像美が豊作だった年(そんなの年を重ねる度にそうだが)だったが、残りは本作とDUNE(延期)、一応ゴジラ-1くらい?自分が映画に求める第一は映像音響美=圧倒的な劇場体験なので、その期待にちゃんと応えて魅せてくれたのは嬉しい限り。グリーンバックCGをやめロケ撮影を決行したという話はどこかで聞いたが、東南アジアを中心に東洋諸国各地の美しい自然、そして相変わらず期待されすぎているTOKYO。実際のロケでの映像ということもあって、それでしか感じられない生の美しさがある。そこに打ち込まれるこのSF世界というこの親和性は非常にいいものだなーとただただ感心させられた。改めて巨大なスクリーンでこの世界をたっぷり味わえたのはとても良かった。


という形で本作はとにかく映像美が良かったという形でまとめさせてもらおう。映画館で観る価値は十二分にある。寧ろ配信で観てしまうと、ストーリーの方に集中してしまって...ということになりかねない。だからストーリーは度外視して、背景と化したこのSF世界をひたすら堪能するというだけであれば上質な映画だと思う。ただ、宣伝方法然り主軸として描いている物語然り、寧ろ描きたい事の方が少々ノイズになっているのは残念。やはりローグワンの一件もあったし20世紀でD傘下というところもあるので、THE CREATORのCREATE話(舞台裏)が諸々聞きたいところではある。(個人的にはパンフレットも少々的外れな内容だった気がする。アバター2みたいに設定資料集だけでもよかったのでは?)
新しいSFとして、また一つ作品が出来たことは嬉しいしそれをリアルタイムで観られたのも僕のような世代は非常に喜ばしい事だ。ただどうしても、今になっても黄金世代(70〜80's)を抜けないこのもどかしさはどこかにぶつけられないのか、と思ってしまう(頼むよドゥニ)。AIというテーマはもっともっと大々的に扱われていくだろう。脅威とも描けるのと対照に、感情移入させられることもできるこの無機物は、非常に難しいが非常に興味深い材料だと感じる。本作を始めとして、これからも加速していくAIの描き方をよく押さえていこうと思う。最終的な集大成的な帰着点はないのだろうが、そこがロマンとも捉えられるので。

#もういや遊牧民

[字幕]

2023.10.24
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