そーいちろー

イン・アワ・ディのそーいちろーのレビュー・感想・評価

イン・アワ・ディ(2023年製作の映画)
3.3
カンヌ監督映画週間にて。英文字幕だった。こういう機会がなければ、日本でホン・サンスを観られる機会は限られるので、ありがたい。本作はここ最近のホン・サンス作品において、特に玄人感を感じさせる、普段以上に観客を選ぶ作品であるため、正直ロードショー上映されるかは怪しい作品であったため、観に行けて良かった。作品はキムミニ演じるかつて女優だった女性の日常と、若者に熱烈な支持を受けたが、自分らしく生きたいと隠居をしている詩人の男の物語が同時進行で展開されていく。この二人に繋がりがあるかは直接的に明示されないが、ラーメンの食べ方(コチュジャンを味変として入れまくる)やギターにおいての表現などでそれとなく二人に関係性があったことが明示される。物語はそれぞれ、今の自分の生き方に悩む若者が、主人公二人に対し生き方についてのアドバイスを求める。二人のメッセージの伝え方は異なるが、要するに「真摯に生きろ。何かそれらしいものを求めず、徒然なるままに誠実に」ということを質問者へと答える。詩人は心臓に悪影響があるため、飲酒を医師から止められているが、最後は酒を飲み、質問に来た若者からもらったタバコを吸いながら外を見つめる。ホン・サンスの考え方が最大濃縮されたような映画で、いつもの軽快な笑いありのやりとりも特になく、淡々と会話劇が繰り広げられる。猫のウリが可愛いし、実は結構劇中な重要なキャラクターだと思う。ホン・サンスのいつもの作品に出るいつものメンツが、いつもより厳かに会話を行い、それ自体も死までの暇つぶしのように感じさせる。オフビートとかそういう域を超越はしていて、じゃあ似たような映画をどこかで観られるかと考えると、あまり観られない。それはこのような作品が普通には弾かれるべき「つまらない」映画だからか、それとも撮るのが難しい高尚なものであるからなのか。結論はよく分からないが、これからもホン・サンス作品が上映されれば必ず映画館で見届けたいと思えるのは確か。
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