みきてー

プレジデントのみきてーのレビュー・感想・評価

プレジデント(2021年製作の映画)
4.6
傑作ドキュメンタリー。

ジンバブエ大統領選の話って聞くと正直全く惹きがない。だけどそんじょそこらのエンタメ映画で太刀打ちできないくらいドラマティックなので、気負わずに見てほしい。導入の解説がめちゃくちゃ親切で分かりやすいから、アヴァンタイトル出るまでに血沸き肉躍るはず。ジンバブエの窮状をまずは知ってほしい。

他国の現状をエンタメ的に消費して、インスタントに義憤に溺れる危うさを感じないわけでもないけど、私はこの作品が無かったらジンバブエに興味を持つこともなかった。ましてや他国の選挙戦の行方を注視するなんて、米国以外なかった。だから今作には本当に感謝している。

感想でこんなことを書き連ねるのは野暮と思いつつも、興味持ってほしいので簡単に解説するね!

ジンバブエは長い間不正選挙による軍事独裁政権がつづいている。そこで野党一丸となって現政権にいい感じのところまで肉薄しはじめるのだけど、選挙戦の直前に野党連合党首のツァンギライ氏がガンで死去。そこで氏の遺志を継ぎ、新党首として立ち上がるのがわずか40歳の新人・チャミサなんだ。彼は果たして大統領として破綻した国家を再び正しい姿に戻すことができるのか…!?という話。ほぼ少年漫画なんだよ。

チャミサ氏はもともと人権派弁護士ということもあり、清廉潔白ぷりが半端じゃない。彼の真摯な姿に充てられて徐々に増していく反政権のボルテージ、姿勢の人々がチャミサにかける言葉の熱量。すべてに魂がこもっていてト書きじゃないのが信じられないくらいパンチラインが連発される。

チャミサは国民に「今より少しでも豊かに、笑顔で生きてほしい」と願っている。平和な国でそれを訴えると経験の無さや若さからくるおためごかしに見えてしまうものだが、実際多くの人が弾圧や貧困で命を落とす中、命がけで(本当に暗殺者に狙われまくっている)理想に向かっていく姿は崇高である。すべての政治家がこうだったら…と願わずにはいられない。

政治映画のほとんどはイデオロギーの衝突に終始してしまう。左右どちらの人が見ても響く作品を作るのは難しい。でも今作はまずジンバブエが法治国家として選挙のシステムも民主主義も瓦解していることが描かれていて、それはもう自国だけの力じゃどうすることもできない段階まで進行してしまっている。遠く遠く離れた私たちが何かできることと言ったら、まずは彼らの現状を知って、周りに伝えること以外ないのではないかと思う。そして今作は国内に向けた映画じゃなくて、明らかに私たちに救いの手を求めている。

ラスト、2023年の夏再選挙があると知った時には、配給の心意気を感じて落涙してしまった。さて、ジンバブエの今がどうなったかは…映画を見れば、必ず検索してしまうと思うんだよな。歴史は続いていくし、「こんなひどい時代もあったねw」と頼むからいつか言わせてほしい。
みきてー

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