1885年のフランス。料理の神髄を極めようと様々なメニューを考案する美食家で、丁寧で繊細な仕事でレシピを再現する調理師ウジェニーとのペアで名を轟かせるドダン・ブッファン。ユーラシア皇太子の晩餐会で見栄えだけの料理にうんざりして最高のポトフ開発へと乗り出した彼が、身体の不調をきたす彼女と育む愛を描いた恋愛映画です。
ベトナム生まれで幼少期に戦争から逃れて移住したフランスで監督デビューし、『ノルウェイの森』らで知られるトラン・アン・ユンが、スイス人作家マルセル・ルーフの小説に触発されて制作した料理映画で、カンヌ国際映画祭で上映されると最優秀監督賞を受賞するなど称賛されてアカデミー賞にはフランス代表作品として出品されました。
「料理」そのものにしっかりとフォーカスして制作された作品で、途方もないほどの準備が必要となる調理の過程を出来上がるまで丹念に描き出して観客の舌なめずりを誘います。終盤に些か性急さを感じるところはあるとはいえそれとリンクさせる二人の恋愛譚はもどかしくも愛おしく、両者に共通する大切なものを捉えようとする一作です。
