東京国際映画祭学生応援団

ポトフ 美食家と料理人の東京国際映画祭学生応援団のレビュー・感想・評価

ポトフ 美食家と料理人(2023年製作の映画)
-
第36回東京国際映画祭
ガラセクション『ポトフ』

19世紀のフランスを舞台に、本作品で第76回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞したトラン・アン・ユン監督が描く、料理人と美食家の愛と料理の物語。

ここまで五感が働く映画は初めてだった。映画鑑賞には視覚と聴覚を働かせるというのが普通だろう。しかしこの作品には自分の嗅覚、味覚、触覚も刺激されているような感覚があった。登場人物が食材を触る感覚、料理の香り、そして味が、俳優の演技、光の使い方、映像美、音響など様々な要素が合わさることで見事に表現されていた。

特に印象的だったのは劇中に音楽がなかったことだ。音楽がない分、野菜を切る音、油の跳ねる音、鳥のさえずり、風の音など、その場を包み込む自然の音が強調され、その音が空間の美しさを際立たせていた。

この作品で描かれているのは、人生の秋を迎えた2人の愛である。長年連れ添ってきた2人は尊敬し合い、助け合う関係だ。とても穏やかな大人の愛の形はとても素敵だと感じながらも、22年しか生きていない私には理解できない難しさを感じた。20年後にもう一度観て、感じ方の変化を楽しんでみたいと思う作品であった。

13期 縄井