あんがすざろっく

PERFECT DAYSのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.4
この二週間程、読書週間でした。
映画はしばらくお休みしていました。

別に意味はないんだけど、少しの間映画と距離を置いてみようかな、と。

読書にのめり込むと、映画と両方同じ時期に楽しむという芸当があんまり出来ないんです、不器用なもので。

もともと読書は嫌いではありません。
高校時代に漫画離れしたのは、小説を読む方が好きになったからだし、映画の原作やノベライズを読むと、頭の中でキャラクターのイメージとか背景が自由に想像できて、より世界観に没頭できるんです。

高校の頃は西村京太郎さんと宗田理さんを好んで読んでましたけど、その後は作家さんで選ぶより、図書館で借りてきたり、本屋さんで平積みされている文庫本を買って読んでいます。新刊とかはあまり関係なく、表紙で惹かれたものが多いかな。
それ程詳しくはありませんけどね。

今好きなのは、米澤穂信さんですね。
横山秀夫さんも好きです。
警察ミステリーをよく読むかな。

そんな読書週間を経た後だと、気持ちがリセットされて、映画の見方も少し新しい空気が入るんです。
最近、そういうバランスが良いのかも、と実感するようになってきました。



本作は公開されてから随分時間が経ちましたが、職場の映画部の方から、ずっとお薦めをされていたので、遅ればせながら鑑賞。
初ヴェンダース作品です。

今このタイミングで観れたことに感謝です。


東京の公衆トイレ清掃員として働く平山。
毎朝、近所の老女が箒で道端を掃く音で目を覚まし、歯磨きや花の水やりなどのルーティンをこなし、缶コーヒーを買って、車に乗り込み、職場へ向かう。
スカイツリーを真上に見上げると、その日の気分でカセットテープを流す。

夜は文庫本を読みながら、眠気に誘われるとそのまま灯りを消す毎日。

何も変わらない日常のように見えて、毎日が平山には少しずつ違っていた。



主人公の平山を、今や世界に名を知られる役所広司さんが演じます。
寡黙ながら、自分の周りにある様々な風景の移り変わりを、慈しむように、味わうように噛み締める心の内を、繊細さと大胆な演技で表現しています。
本作でカンヌ映画祭において主演男優賞を獲得しましたね‼️

平山のように、極力削ぎ落とされた生活って、ちょっと贅沢かも知れない。
自分には絶対できないと思いますけどね。
自宅にテレビもスマホもない生活は、想像できません💦
でも、本と音楽があれば、何とかなる…かな。
平山のように外の世界との関係を、これも極力削ぎ落としているから、出来るんでしょうかね。
ただ、それは必要ない情報を入れようとしていないだけで、平山は無口ではありながらも、人との関係は構築出来ています。
それも、一定の距離を保って。
それを寂しいと取るか、煩わしくなくていいと取るか。

突然現れる姪に面喰らうも、彼女との生活でその距離感にも変化が生じます。


隅田川沿いでタバコをふかしてむせ込むシーンがいいですね。
多分平山は、今の状況をどうこうしたかったのではなく、今まで通りにならなくなるんじゃないか、って不安と苛立ちがあったのかも知れないですね。
自分の場所が無くなってしまうんじゃないか、って不安かな。
このシーンでの、三浦友和さんとの会話も沁みます。


平山の同僚、タカシを演じたのが、柄本時生さん。
危なっかしい不安定要素を撒き散らしながらも、途中憎めない姿を見せるんですけどね。

そのタカシが熱をあげるアヤちゃんを演じるのは、アオイヤマダさん。
モデルさんなんですね。
じっと見られると、視線を外せなくなる目力があります。

平山の姪、ニコを演じたのは中野有紗さん。
その独特の雰囲気が、いきなり作中に投げ込まれても、まるで違和感がない。

「🎵こんどはこんど いまはいま♪」



平山の行きつけの居酒屋のママは、何と石川さゆりさん‼️
声だけで一発で分かってしまう。

しかも、あがた森魚さんのギターで、あのうねりを披露してくれます。
このシーンが大好きでした。
こんな居酒屋あったら、飲まなくても歌だけ聞く為に通っちゃいますね🥰



田中泯さんは、佇まいが惹きつけられますね。流れるような動き。
まるで、木漏れ日の舞を踊っているような。


野良猫と遊んでいる女性、やっぱり研ナオコさんだった😳
一瞬だけしか映らないけど、雰囲気で分かるものですね。

モロ師岡さんもいたり、監督はどうやってキャスティングしたんでしょう。
素晴らしいの一言です。





登場する公衆トイレは、みんな個性的で、目を引くものばかり。
へぇ、こんなトイレもあるんだなぁと驚きました。
しかしまぁ正直なところ、アートとしての面を切り取っていることは分かりますが、全部が全部、こうではないですよね。
それを言っては、作品が成り立ちませんけど。
トイレの清掃員の方が、どういうモチベーションで仕事をしているのか。
こういうトイレだけではないはずですよね。

平山という人間は魅力的ではありますが、普段の行動であったり、仕事着のことだったり、個人的にちょっと気になることがノイズになってしまったかな…。


世界中に公衆トイレってあると思いますが、調べてみると結構様々なんですね。

海外だと、有料のトイレだったり、個室がないトイレもあったりするんだとか。

国によって、トイレの考え方も違うんだなぁと思いました。

考えてみたら、日本のトイレと言えば、ウォシュレット‼️
今でこそ普及して、多くの家庭でも見られますけど、最初の頃は開発はしたものの、認知されるまで大変だったみたいですよね。
テレビCMとか、流してもクレームがきたこともあったと、ウォシュレット誕生秘話で知りました。

度重なる苦境を乗り越えて、今や世界から日本のウォシュレットを買い求める人も多いんじゃないでしょうか。
TOTOさん、凄い企業です。
日本の誇る会社ですよね。



そして何よりも、本作で僕を身悶えさせたのは、音楽です。
オープニングしばらくして、平山のカセットから流れるのはザ・アニマルズの
「The house of the rising sun」。
もう、ここで鳥肌立ちました。

洋楽のクラシックが流れるだけで、なんで日本の映画が途端に洋画に見えるのか。

いや、邦画でも洋楽を使う作品は沢山あるけど。
何でしょうね、上手く説明できないんですけど、本作は風景の切り取り方とか、纏っている空気が日本的でないから、洋楽がピタリと合うのかな…。
そうは言っても、途中金延幸子さんという方が歌う「青い魚」という日本の曲も流れるのに、これも全く違和感がなく、まるで洋楽に聞こえてしまう不思議。
ヴァン・モリソンも流れる☺️
エンディングのニーナ・シモンも痺れるくらいにイイ🤩
前述の石川さゆりさんが歌う「朝日のあたる家(The house of the rising sunの日本語バージョン)も、味があって大好きでした。


本作のもう一つの主役とも言える、カセットテープ。
そうそう、鉛筆でグルグル巻き取ってました😙懐かしいなぁ。

以前僕が勤めていた職場の上司に、「自分はカセットテープマニアなんだよ」と仰っている方がいたんですけど、その方がこの映画を観たら、どんなにか喜ぶだろうな。

レコードコレクターっていうのもカッコいいですけど(今はDJをやっている方も多いから、レコードの方が需要があると思いますが)、カセットテープマニアも渋いですよね。
自分も昔は好きな曲詰め込んで、オリジナルのテープ作ってたもんな。

今はサブスクも普及して、好きな曲をすぐに探せるし、アルバムとか通して聞いても、自分の好みに合わない曲とかはすぐに次の曲に飛ばせるじゃないですか。
自分もどっぷりその恩恵に与っている身なのですが😅、レコードとかカセットテープって、その早送りが手間だから、曲を飛ばさずに聞いて、聞いているうちに苦手な曲も味わえるようになってきて、アルバム全体の仕上がりが分かってくると、何だか嬉しいんですよね。
この映画観てから、サブスクで音楽聞く時も、なるべく曲を飛ばさないでアルバム全体を聞くようにしよう、と改めて思いました。
だって、CD制作する人達って、曲順とかだって、あ〜でもないこ〜でもないって、試行錯誤しながら決めてるんですもんね。
好きなアルバムは、やっぱりCDで手元に置いておきたくなります。

思ったんですけど。
今の若い人達って、CDをあんまり買わないのは、CDを聞ける環境がないからなんですか?
CDデッキが家にないとか。
そもそもCD自体を知らないとか。
そうだとしたら、まずごめんなさいと謝っておきます。

去年、日本の某人気アーティストの楽曲がサブスクから消えた、って話題になったじゃないですか。
契約とかあるだろうし、アーティストの意向もあるだろうし、僕は特別驚かなかったんですよ。

でも街行く人達にインタビューしていると、それがショックだと言う方もいたし、凹むと語っている方もいました。

僕の先入観で話してしまって申し訳ないんですけど、その時
「そんなに好きなら、CDを買えばいいじゃない。買ってスマホとかにダウンロードすればいいじゃない。
CDを買ってあげた方が、アーティストも喜ぶのに。」
と、何の疑問もなく思ってしまったのです。

前述の通り、CDを聞ける環境がなくて、サブスクでしか音楽を聞けない人は、ショックなんでしょうね。
サブスクは低額で聞き放題なのに、わざわざCDにお金を払うのは…っていうのもあるのかも知れない。
勿論、若い世代の人は、音楽はサブスクでしか聞いたことがない、という方もいるかも知れません。


サブスクはすぐに聞けるし、CDみたいにデッキに入れたりする手間もありませんが、アーティストの皆さんは多額の制作費をかけてCDを作ってるし、せめて大好きなアーティストのCDは、今後も僕は買い続けたいな。


物が溢れない贅沢。
目覚まし時計の要らない贅沢。
早送りしない贅沢。


久しぶりに映画に触れて(と言っても2週間ぐらいだけど😅)、豊潤な時間を堪能させてもらいました。
今年度のアカデミー賞にも、国際長編映画部門でノミネート、行方が気になります。


ちなみに、今回の読書週間で読んでいたのは、米澤穂信さんの「満願」、
先日「さかなのこ」を見て、とても気になっていたさかなクンの自伝小説、
奥さんから借りた小野寺史宣さんの「ひと」。
「この世界の片隅に」のノベライズも読み返してました。

どれもとても素晴らしくて、こちらも至福の時間でした。
あんがすざろっく

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