ねーね

PERFECT DAYSのねーねのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5
2024年はじまったばかりだけど、本作、すでにベスト級に刺さっている。
なにげない日常こそが幸せなのだ、と心から思わせてくれた。
Perfect Daysを見つけられるのは自分だけ。

はたから見れば、地味な印象のトイレ掃除の仕事。
暗くて階段のきしむような、おんぼろアパートメント。
よれよれになった布団。
神社のベンチで座って食べる、コンビニのサンドイッチ。
古本屋で買うたった100円の安い文庫本。
雑踏のエキナカで食べる、質素な夕ご飯。
いまや絶滅危惧種のガラケーをポケットに忍ばせ、本棚には大量の古いカセットテープ。
そのどれもがなぜかキラキラと輝いて見えるのは、平山が満ち足りた表情で毎日を送っているからだ。

自転車で「今は今!」を歌っている平山が、まいにち移り変わる木漏れ日の写真を大切に眺める平山が、トイレの見知らぬ他人とマルバツゲームをする平山が、私はうらやましかった。
私は都会の華やかな仕事をして、最先端の家電を買って、好きな人たちと美味しいものをたらふく食べて、お金も自由に使えて、あたたかくて明るい家に住んでいるけれど、結局モノはモノに過ぎず、価値観ひとつで世界の見え方はこうも変わるのだと知った。

私は、自分の人生に満足したことなんていままで一度たりともなくて、前向きになれることは数少ないし、常に間違った選択をしていないか怯えることが癖づいている。
でも、「間違った選択」なんてもしかしたらないのかな。
自分の軸だけを信じて「足るを知る」ことができれば、すべての日常が幸せな人生のひとコマになりえるのかも。
すぐにそれが実践できるのか?他人と比べずに胸を張って「これが私の幸せだ」と思えるのか?いや、きっと難しいけど。
でも、そういう考え方で人はいくらでも幸せになれるんだ、最高の人生は自分しかつくれないんだ、そう気づかせてくれただけでも、この映画は路頭に迷う32歳の冬に鑑賞するにふさわしかった。

輝きを残し滲んで消えゆく夕日に微笑む平山が美しかった。
feeling good、この名曲を流すヴィム・ヴェンダースのセンスに嫉妬した。
彼のすくない口数から感じとれる強さが欲しいと思った。
私も、最高な毎日を、最高の気分で送れるように努力しよう。
人生は今が一番若い。いつだって生き方を変えられる。
ねーね

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