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PERFECT DAYSのあのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
冒頭から物語の真ん中まではほぼ主人公、平山さんのセリフはなく、銭湯の人へのこんにちはだったり数え切れるくらいだった。だが役所さんの表情と行動、周りの風景からどのような場面なのかは想像がついた。映画中、ずっと行間を読んでいるような感覚だった。物語の中にたびたび出てくる、日常の些細な一コマを切り取ったような瞬間を写すシーンがある。そのあとに平山さんの顔が写る、その時の表情が笑顔だったり、真剣な顔していたり、はたまた泣きそうな顔をしていたりと、彼はその風景を見て何を思い出して、何を思い、どのような経緯で、どのような感情になり、そのような表情しているのかを考えながら見ていたらあっという間に映画が終わっていた。主人公の役柄として無口で多くを語らない。見ているときに思ったのは、無口な人ってこんなにもミステリアスで魅力的に見えて、でもどこかサイコパスのような怖さがあるように感じた。誰もがみんなに自分のことを話したがる。だが、誰にも自分のことを多くは語らず、聞かれても黙っている平山さんを見ていると、この人は人間としての誰から認められたいと言う欲求はなくても良いものだと感じた。自分の好きなことをひたすらに追求して、平穏な日々を送る。そんな日々の素晴らしさ、それと同時に日々の儚さと静けさ、哀しさのようなものも感じた。
最近の多くの映画にある傾向、セリフが多く、鑑賞者に考える余地を与えない、誰が見ても同じような捉え方になる演出や、映画中に劇的な事が起きたり、主人公があることをきっかけに大きく変わっていたりなどの映画でいう王道ストーリーは含まれていなかった。だからこそ、新鮮に思えた。でもある意味で淡々としたストーリー、言ってしまえばほぼ何も変わらない日常をスクリーンに映し出しているだけで合った。しかし映像作品としての美しさや、鑑賞者の回想を膨らませるような謎なシーンの挿入やそれを見た平山さんの表情を、を多く含むことによって、淡白に見えるストーリーが華やかに見えた。
映画中で印象だったシーンは平山さんが寝ている時の夢の中を表現している描写だ。フィルムも登場してくる影響からか、夢は全てモノクロで、かつその日に見た出来事が含まれていたり、はたまたよく分からないシーンが出てくる。しかし、モノクロの影がいくつも重なり合い、日常の音が流れているそのシーンは、今まで夢という抽象的なものを可視化し、映像として見ることによってより夢というものが神秘的に思えたし、逆に科学的にも思えた。一度人間が可視化して作れたものは、人間によって悪い意味でも良い意味でも操作できるものに変わってしまう気がする。また、今回このフィルム写真でも大切なキーになる影というのがこの映画のポイントだと思う。平山さんがもっている、フィルムカメラ、平山さんが見るモノクロの夢、平山さんが日常の中で影を見て微笑む姿、バーのママの元旦那さんと影について語り合う姿、最後に平山さんがカセットテープを聴きながら、涙を浮かべながら少し不気味に微笑む顔に映り込む多くの影。あげたらキリがないがその影が何を指し示しているのか、それとも特にこれといった意味は無いのかもしれないが、この映画は影の印象が強く残った映画だった。映画の最後にはエンドロール後に、木漏れ日のモノクロのシーンと木漏れ日の意味が綴られている画面が映った。エンドロール後にそのようなシーンが映し出される映画は少なく、意図的に、監督が鑑賞者に木漏れ日というワード、またそれを取り巻くものを印象付けるために最後に入れたとしか考えられない。このままずっと描き続けてしまいそうだ。全く描く手が止まらない。あとでまとめよう。でも私が日常の中で注目してみたり、幸せだなとか微笑むようなシーンが平山さんと同じでなんだか嬉しくなった。自分と同じで、こうやって日々の些細な幸せを見ている人もいるんだなと、そしてそれが間違っていないことだと教えてもらえた気がした。
DVDが出たら絶対に買いたいと思った。
カセットテープも買いたい、本ももっと読みたい。植物にも関心を寄せたいし、私が思い描くなりたい、大人の像がハッキリした。
またあとで書くかも。
あ