吉太郎

PERFECT DAYSの吉太郎のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
【東京】

狭くて広い、東京。
この映画を見て思う、幸せに【なりたい】なんて傲慢だ。なっていくしかない、他でもない、自分自身で。

スカイツリーは人によってその見え方が異なる。手持ちのカードがウケるくらい寒い人も多いだろう、熱かったカードを理不尽に他人からむしり取られた人もいるだろう、自分で破り捨てた人もいるだろう。

彼女にご馳走する飯代一万がない若者も、血眼で子供を私立小学校に通わせる主婦も、風呂がない家に住んでいる男も、時代を見てきたお年寄りも、いろんな想いを持ちながら東京に暮らしている。
せかせかと子供を金切り声で叱る母親、公園で死にながら毎日同じサンドイッチをかじるOL、おかえりって言ってくれる浅草のあの居酒屋、本当にそれを選ぶのね、と言ってくる妹、全部全部東京なのだ。
明け方、毎朝決意するように、まるで睨むかようにスカイツリーを見据え車をぐんぐん走らせる平山。

この、選び切った男の、この、この、迫力。君の名前で僕を呼んでの暖炉前のエリオを彷彿とさせるこの威力。
抗うようにアナログなものを好み、しかしまた、奇しくも仕事では東京のイケイケの近代的なトイレを掃除していく。

詳細は描かれない。何を失い、何にうちのめされたのか、「今度」があったのか、消えていった彼らについても、その場所にどうしても行けないことも。好きだったでしょって、高級そうなお菓子を食べていた暮らしを捨てた理由も。
ただ、絶対に、負けたくない。他でもない東京という地獄で、この暮らしを自分で選び、決してあきらめてはやらない。穏やかな平山に垣間見える、自分が選んだささやかな暮らしを貫くという決意、執念。俺らはここで生きていく。

東京にだって、東京にだって、バーでのあのギターが、マルバツゲームが、お疲れさんって言うあの店長が、神社の大木に出る小さな芽が、東京にだってあるんだ。参っちゃうぜ、東京にも朝日が昇るんだ、あの道路から見る朝焼けが、あまりに綺麗なもんだから、俺らはまだちゃっかり感動できるんだ、笑っちゃうよな。
泣きながら笑い、どの場所でだって、自分だけのささやかな時間を積み重ね、生きていく。気づける、という純粋さと、それを保つ覚悟が必要だ。

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