keith中村

PERFECT DAYSのkeith中村のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
 完璧な映画だった。
 実に完璧な映画だった。
 ほんっとに完璧な映画だった。
 
 ヴェンダース×東京というと、当然のように「東京画」を思い出すけれど、私は「思い出す」と言えるほどあの映画の細部を覚えているわけではないので、恥ずかしながらあっちと対比させたレビューはできません。
 「あっちは東京タワーで、こっちは東京スカイツリーだなぁ」
 ほら、馬鹿なことしか書けないでしょ。そもそもあっちはまだスカイツリーがなかった時代なんだから当たり前だ。
 「あっちはドキュメンタリーで、こっちは劇映画だなぁ」
 ほらほら、書けば書くほど馬鹿が露呈するのでやめときます。
 
 弟子筋のジャームッシュが、私にとって双六の「あがり」にあたる「パターソン」を撮ってから早7年。師匠筋のヴェンダースも同じく「パターソン」と同じ境地の、双六で言う「あがり」に行っちゃった。
 
 「繰り返す平凡な日常の中に幸せを見つける映画」は山ほどあるんですよ。
 でも「繰り返す平凡な日常こそが幸せ」という映画はあまりありません。
 そもそも、映画って「孤独恐怖症」な人を描くことが非常に多いのですね。
 「私は孤独だ。この孤独な魂を理解してくれ。この魂を救ってくれ」
 もちろん私はそういう映画も大好きだし、充分に共感できる。でも、根っこのところでは、私は孤独だろうが誰かといようが、幸せな時は幸せだし、そうじゃないときはそうじゃないという人間なんですよ。もっというと、一人でいて寂しいって意味、あんまりよく分かんない! ってタイプ。ずっと一人でいても楽しいですよ。
 こういうのって、映画の中では「ほんとは一人が寂しいんでしょ? ほんとは誰かと繋がってたいんでしょ?」って人物の強がりに描かれることが多いけど、私はそうじゃない。
 今日もそうだけど、普通に朝起きて、普通に仕事に行って、普通に帰りに映画を観て、普通に家路につく。それだけでめっちゃ幸せなのさ。(あと、まあまあ久しぶりに酒を呷ってるけどさ)
 
 本作で役所広司が木々のゆらめきや陽光や影(本作は最終的に"Komorebi"という日本語の定義で終わる。関係ないけど、、ジャームッシュ監督の「パターソン」じゃない映画ではウィッテカーさんが"Hagakure"読んでたね!)に対して浮かべる微笑みを私はいつも映画に対して浮かべてる。だからもちろん本作も微笑みっぱなしでしたよ。
 「これ、俺を描いてるじゃん! これ、俺だよ!」そんな感じ。
 
 「パターソン」は言うても夫婦の話じゃん。そこまで孤独じゃないじゃん。あと、日常にちょっとしたことを見つけて「ふふん♪」ってなる映画じゃん。そりゃ、俺だってもしバス運転手してて、「ムーンライズ・キングダム」から成長したあのカップルが乗ってきたら、俺世代的には「メロディ」のマーク・レスターとトレイシー・ハイドが乗ってきたのに並ぶレベルで嬉しいけどさ!
 でも、こっちはもっとずっと一人なの。でもって、「ちょっとしたこと」を見つけなくても、ずっと「ふふん♪」って生きてるの。
 「パターソン」はパーフェクトな映画だったけど、やっぱ師匠のヴェンダース、それを超えてきたね。
 
 居酒屋ママの石川さゆりは「ふたりでいたって寒いけど、嘘でも抱かれりゃ暖かい」って嘗て歌ってましたが、平山さんは一人でいたってぜんぜん暖かいタイプ。私もそう。
 
 まずは平山さん、何が私と似てるって音楽の趣味。っていうか、まあまあ本作のサントラはまあまあベタなんだけど、全部私も好き。
 頭から行きましょうね。
 アニマルズの「朝日のあたる家」。
 何千回聴いたと思うけど、本作で歌われる石川さゆりさんの邦訳バージョンを今回聴くまで娼館がテーマだと気づかなかった。馬鹿かも。恥ずかしいっ!
 続くはパティ・スミスの「レドンド・ビーチ」とストーンズの「Walkin' Thru the Sleepy City」。
 後者はベタが多い本作随一のレアトラックだよね。「メタモーフォシス」にしか収録されてない。
 あれ? 金延幸子の「青い魚」(←これもマジレアトラック)とどっちが先に流れたっけ? 今日が健康診断だったので、ガンマGPTの高さを隠すため、一週間酒を断ってて、帰ってきて部屋のドアを開けるなり着替えるより先に焼酎を浴びて書き始め(玄関開けたら五秒でお酒! 違うわ! それはほぼAVのタイトルだわ!)、はや一時間以上呑み続け書き続けてるんでどっちが先だったか憶えてません!
 
 それからヴェルヴェットの「Pale Blue Eyes」とオーティスの「Dock of the Bay」、キンクスの「Sunny Afternoon」、ヴァン・モリソンの「Brown Eyed Girl」。
 もう、スコセッシの「グッドフェローズ」かよ! っていう楽曲のベタさ。
 でも、それが心地いいのさ。
 そんでもって、タイトル曲とも言えるルー・リードの「パーフェクト・デイ」。
 ラストはニーナ・シモンの「Feeling Good」
 そんなもん全部好き。
 
 平山さんの読んでる本も全部大好き。こっちはそんなにアップになるの多くないけど。
 まず、フォークナーの「野生の棕櫚」。続くは幸田文の「木」とパトリシア・ハイスミスの「11の物語」、とりわけヴィクターが主人公の「すっぽん」。
 姪っ子ちゃんが「私もヴィクターになっちゃうよ!」って叫んでましたが、大丈夫。あなた(姪っ子ニコちゃん=ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの1stアルバムのヴォーカル)は、役所さんaka平山さんのような幸せな大人になれるよ! すっぽん、ペットにしてもいいけど、食べたら食べたで美味しいから(←悪~い大人の意見)。
 
 あと、あれですね。
 ハリウッド映画ではトイレのシーンは全部セット。
 役者さんを汚い実際のトイレで演じさせるわけにはいかないっていう配慮。
 「T2」ではトイレの壁を破るターミネーター同士の闘いがあったけど、もちろんセット。
 あと、かなり遅れてきた(これはハリウッドじゃなくイギリス映画だけど)「T2」のボイルさんの一作目でユアン君が潜る映画史上いちばん汚い便器ももちろんセット。←あ! そういやあのシーンも"Perfect Day"流れてたよね!
 
 でも、日本映画のトイレは予算がないから、だいたい本物のトイレを使っちゃう。
 本作はロケをしないと意味がない作りになっていたので、全部マジトイレ。役所さんがそれを手袋だったり素手だったりでほんとに触る。まあ、本番前に清掃スタッフが「舌で舐めてもいいレベル」に清掃消毒はしたんだろうけど、それでもやっぱ役所さんがあそこまで叮嚀に掃除してたらちょっとえも言われる感覚になります。
 役所さん、凄いわ!
(トイレには~、それはそれは綺麗な女神さまがいるんやで~♪)
 
 ループものって、実存主義的に「この円環構造から逃れなきゃ」って作品が、それこそビル・マーレイ主演の例の傑作から連綿と続くテーマじゃないですか。
 でも、本作はそんなのを屁ともしない、「ループ上等! ループでなぜ悪い?!」って映画。
 
 だから、ルー・リードの「トランスフォーマー」収録曲は"Oh, it's such a perfect day"って単数なんだけど、これは"Perfect days"って複数形なのさ。ルーさんのほうは、たかだかドラッグでハイになった一日を描写してるだけなんだが、こっちは毎日ずっと楽しいのね。
 だからだから、こっちのほうがより幸せなんでずっと微笑んでいられる。
 とはいえ、ニコちゃんのくだりとか、終盤の友和さんとの"Chasin' The Shadow"とかは泣ける。
 あと、ラストのニーナ・シモンの曲を背負って車を運転してる平山さんの顔は、2023年度ホラー部門ベストワン、ミア・ゴスちゃんとも重なって重なって。
 
 映画最高! 孤独最高!

 役所さんがBOSSを毎朝飲むのがニヤってなった。プロダクトプレイスメント? 杉作ちゃんの代わりに後半シフトで安藤たまよさんが来てたけど🤣
 トミーさんがどっかに居やしないかと目を凝らしましたよ!