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白鍵と黒鍵の間にのシネマノのレビュー・感想・評価

白鍵と黒鍵の間に(2023年製作の映画)
3.7
『見事な構成。人生=夢=ジャズ、そこにあるドラマを”ノンシャラント”に描く一作』

あらすじからして引き込まれる一作、かつ音楽をテーマに据えた映画ということで、音響を楽しむためにも劇場で鑑賞。
結果、原作へのリスペクトを込めた冨永昌敬監督の試みに終始釘付けになる映画体験であった。

昭和63年、一つの節目が迫る東京・ギンザ。
そこは、男女・夢・欲・金が舞い乱れる街であった。

そんなギンザの年末、多くの人間が浮かれる中で、浮かれていない(浮かれられぬ)人間たちが繰り広げる熱狂の一夜。

まるで、ギンザそのものが奏でるようなジャズセッションが良い。
そして、その一夜の顛末を巡る群像劇としても面白い。
さらには、そこに監督が試みた構成の企みに唸る。

ロマン、コメディ、そしてスリル。
数分起きに目まぐるしく変わる展開は、さながらジャズ。
決してどれに寄るでもなく、ノンシャラント(劇中では日本語としては表現しきれない、と表される)に描くトーンは、観る人を選ぶかもしれない。

しかし

ジャズとは、人生、夢と現実とは、そうなのである。
その全てをノンストップ、一夜で駆け巡る快感は一度味わう価値ありだ。

終盤、積み上げてきたものが一気に展開する。
夢を持つ者、夢を忘れた(忘れようとする)者、夢を諦めた(諦めようとする)者。

ギンザに集うあらゆる者の人生を変える ”無茶苦茶で美しい”結末に、
ジャム交じりの名曲を味わって満腹になる感覚と同様、自分も少し救われる気がした。

あらゆるしがらみが絡みつく人生、どうせ終わりに向かっていくのなら、望みに向かってノンシャラントに生きていこう。

▼邦題:白鍵と黒鍵の間に
▼採点:★★★★★★☆☆☆☆
▼上映時間:94min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞
▼鑑賞劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷
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