sanbon

SAND LANDのsanbonのレビュー・感想・評価

SAND LAND(2023年製作の映画)
4.2
今年の夏映画はこれで決まり!

この時期は夏休み商戦という事で、映画業界は非常に賑やかな様相を呈し、毎年大作映画が軒並み乱立する事になるのだが、そんな強力ラインナップの中にあって、個人的最オススメ夏映画は今作で決定である。

原作コミックは、20年以上前に読んだっきりで内容もほとんど覚えてはいなかったが、海外旅行に向かう機内で読んだという事もあって、個人的には思い出深い作品でもある。

そして、予告の謳い文句で「鳥山明を体感せよ」とあるが、こんなに"ズレてない"広報を見るのも珍しいくらい正に一言一句その通り、これこそが鳥山明の真骨頂といったようなワクワクに溢れた作品であった。

それこそ、悲しいかな「ドラゴンボール超」シリーズが駄作揃いで、鳥山明の信頼度にも陰りが見えていた中での今作での一撃は、かなりのインパクトかつ非常に痛快といったところ。

愛くるしいキャラクター、明快なストーリー、王道を行く展開、説教的にならない教訓、胸躍るアドベンチャーと、その全ての要素が高水準のまま全編に渡って彩られているのだから、これは凄いとしか言いようがない。

その上、僕としては元来女性キャラが極力出てこない物語が好みである為、パーティの2/3がジジイキャラといういぶし銀さ加減も実に大好物であるのだが、それを鳥山明にしか出せないデフォルメ絵の楽しさがその渋さすらをも緩和させて、全世代へと訴求出来ているのだから、そういったところも抜け目がない。

ただ、その王道過ぎるストーリーラインに、荒野を延々と旅する絵面、更には画面に女の子が映るのがほんの数秒程しかないという事も相まってか、地味やら斬新さが足らないという意見もあるようだが、こんなに可愛さやエロさとも無縁に、ただただ純粋な面白さの塊でぶん殴られる機会など今となっては稀有でしかないのだから、むしろこの体験は喜んで然るべきだろう。

その要素が少ない分、こんなに安心して全年齢誰にでもオススメできる、老若男女が一律で楽しめる映画も最早珍しいというものだ。

魔族が純粋で良い奴というギャップに加え、民間の庇護者たる軍隊が腐敗した組織として登場するというのも、往年の任侠映画のような構造を為していて、そのアンチヒーローな構成もベタながら楽しい要素の一つであるし、善悪の明暗が極端な程ハッキリしている点も、勧善懲悪ものとして純粋な面白さに直結している。

しかも、今作も鳥山明特有のパワープレー全開のゴリ押しアクションかと思いきや、戦車戦などはミリタリー知識をふんだんに盛り込んだ戦略的な戦闘を楽しめる良い裏切りもある為、展開の緩急も上手く付いている。

この戦闘描写に関しては、映画オリジナルの肉付けが結構されているので、ここに今作の製作陣の本気度が見えた気がする。

そして、何より作品コンセプトが素晴らしい。

水という最重要ライフラインを題材に、作中それが制限されたカラッカラの世界を描き続け、因縁の決着と同時にまっ茶色の景色に瑞々しい青色が、文字通り洪水の如く押し寄せる構成は、これ以上ない程の開放感と清涼感、そして爽やかな感動を呼び起こし、もっともっと見続けていたいと思わせる素晴らしい構成となっている。

また、意外な事に今作の作画は全編フル3DCGで描かれたものかと思いきや、セル画の作画スタッフなどがエンドロールに名を連ねていた事から手描きで作られているようで、そこらも地味に驚きである。

ルック的には、どう見ても前者のクオリティなのだが本当かなぁ?

ここ最近は特に映画館での鑑賞が増えていたのだが、その中でも飛び抜けて「映画を観た!」という純粋なワクワクを味わいながら久々にシアターを後に出来たので、残り少なくなってきた夏休み最後の思い出に、この映画を観る選択肢は断然"アリ"である。

興収的には厳しい事になっているようなので、是非とも映画館へ迷わずGOだ。
sanbon

sanbon