ぶみ

12日の殺人のぶみのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.5
10月12日の夜、私は殺された。

ドミニク・モル監督、バスティアン・ブイヨン主演によるフランス製作のドラマ。
女子大生が焼死体で発見された事件を追う刑事等の姿を描く。
主人公となる殺人捜査班の班長ヨアンをブイヨン、ヨアンの相棒マルソーをブーリ・ランネール、殺された女子大生クララをルーラ・コットン・フラピエが演じているほか、ポーリーヌ・セリエ、ムーナ・スアレム等が登場。
物語は、2016年10月12日の夜、パーティー帰りの女子大生クララが、何者かにガソリンをかけられたうえに火をつけられて殺されるという衝撃的なシーンでスタート、以降、捜査線上に容疑者が浮かび上がるものの、決定的な証拠がなく、三年の月日が流れてしまう様が中心となるのだが、イメージビジュアルに文字が躍っているのに加え、本編の冒頭でもフランスの現状が示されるように、本作品のテーマは未解決事件。
公式サイトによれば、本作品は2013年に実際に起きた事件をベースとしたフィクションであるとのことなのだが、その事件が今も未解決であるように、本作品でも本格ミステリのように頭脳明晰な名探偵が登場して事件を解決に導くということはなく、描かれるのは、捜査班による地道な捜査。
考えてみれば、通常の刑事ドラマでは、捜査陣の華やかな活躍シーンだけが切り取られているが、それは膨大なる時間を費やして捜査を行った賜物であり、その裏には聞き込みや、アリバイ崩し、はたまた調書作成といった地道な作業があるはずで、本作品では、そんな日常の捜査風景が丁寧に描かれていることから、警察当局の大変さを気づかさせてくれる仕上がりとなっている。
加えて、被害者が女性、捜査する側や容疑者がすべて男性という状況がもたらすバイアスについても触れられており、捜査はゲームではなく、あくまでも人間が行っていることを示していると同時に、そんなツラい仕事の精神バランスを保つため、非番の日に夜な夜な自転車に乗るヨアンの姿が印象的だったところ。
派手さはなく、比較的淡々と進行していくため、所謂エンタメ映画的な面白さは皆無ではあるものの、刑事たちの捜査風景を描くお仕事ムービーとしては一級品であり、観る側も一緒に捜査しているような感覚に陥ることができるとともに、監督の前作『悪なき殺人』同様、フランスの片田舎を舞台とした映像の雰囲気は北欧ミステリを彷彿とさせるものであり、原題の直訳となる『12日の夜』ではなく、前述の監督の前作に準えたかのようなタイトルとした邦題も悪くない一作。

「終わり」とは言わせない。
ぶみ

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