Yoshishun

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

“霊、イタい、気持ち悪い”

Filmarksオンライン試写会にて。

双子YouTuberの初監督作にして、A24史上最高のヒットを記録した降霊ホラー。若者の間で流行っていた降霊術を体験することになったミアは、かつてないスリルと快感を得たことで幾度となく降霊会に参加することに。しかし、弟ライリーに母を憑依させたことで事態は思わぬ方向へと向かっていく。

鑑賞前はコックリさんか何かの降霊ものを扱っただけの作品かと思っていたが、実際はドラッグやSNSなどの中毒や、自己承認欲求に駆られ若気の至りでは済まない惨事を引き起こす危険性を描いた作品だった。
冒頭の異常な兄弟の刺殺シーンでも、霊が憑依したような弟の身なりを周囲はただスマホで録画しているだけである。兄が刺された瞬間にはじめて弟に恐怖を覚え、逃げ惑う。目の前の異常さよりも、まずはネットで拡散させることを優先する人々の方がより異常なものに映る。

ミアにはかつて母がいたが、睡眠薬の過剰摂取により死亡したものの、自殺か他殺かさえも不明な中死の真相を知らされることがなかったために疑念が膨らみ、父とは疎遠状態になっていた。ここでのミアは、ジェイドという親友の家族に身を寄せていたものの、どこか母のいない孤独感が垣間見える。そんな中、彼女は若者の間で大流行していた、手のオブジェを利用した降霊術に目をつける。一体そんなものどこから入手したんだと言いたくなる気持ちもあるが、霊に話し掛け、自身の身に憑依させる体験がかなり刺激的だったようで、彼女は何度も通うようになる。参加者の熱狂具合もカルト集団のようで、目の前で憑依されながらもカメラで撮り続ける光景は滑稽そのもの。

しかし、降霊は90秒以内というルールが決まっているのに、ミアはうっかり数秒程長く憑依させてしまう。事態は収拾がついたかに見えたが、その日から彼女は憑依させなくとも霊の姿が見えるようになる。加えて、まだ中学生ぐらいのライリーも憑依することになるものの、恐ろしいことにミアの母と思わしき霊が憑依したことでルールを逸脱してしまい、ライリーの体内に複数の霊が居座るという最悪の事態に。

面白いのは、この後ミアやジェイドらが協力してライリーを助け出すというお約束の展開にならないことにある。一瞬ではあるものの、ライリーは複数の霊に取り憑かれ体を引き裂かれたり弄ばれている状態で最早彼を解放する手段など存在しないのだ。あまりにも救いのない展開だが、あろうことか現実を生きる者達の忠告や進言はガン無視し、ミアは母の霊の言葉を信じてしまう。父とも、そしてライリーの一件でジェイドらとも疎遠となった彼女は孤立していたためである。果たして彼女はそのままライリーを死に至らしめてしまうのか?胸糞悪い展開が続く中で最悪な結末を辿るのか、緊張と不安は加速していくばかり。

そして、迎えるラストは、まさに自業自得とでもいうべきか。憑依する側の霊の世界を映し出すという粋な映像から始まり、地獄の始まりともいえる場所で終わる。人々の興味や好奇心が続く限り、降霊会という一種のイベントは終わることはない。永遠に続く地獄を予感させるかのように本作は幕を閉じる。

恐らく自己中心的に振る舞いまくるミアに対してストレスを感じる方は少なくないはず。彼女の提案さえ無ければライリーは無事に済んだはずである。しかし周囲の同調圧力、そして降霊術への好奇心がフルスロットルに働いてしまったことで、取り返しのつかない事態へと導いてしまった。ドラッグやアルコール、ひいてはSNSに中毒的症状を患ってしまうと簡単には引き返せない危うさがある。

映倫ではPG12指定だが、恐らくその原因はライリーの場面に集約されている。『ヘレディタリー』のあの青年の如く、何度も自分の頭を机やタンスに打ち付け、終いには目玉をも抉り取ろうとする強烈な描写は未成年への暴力として衝撃度は高め。未成年喫煙、飲酒など何のその。その一連のシークエンスのみで本作の禍々しさを表している。

全編に渡り、次に若者が何をしでかすか、何を憑依させてしまうのかという緊張感と不安が漂い続ける、今年を代表するホラー作品。確かにこの手のホラーにありがちなキャラクターの行動の軽率さやストレスを感じさせる瞬間も少なくない。また、終盤でライリーが生還する展開にもご都合主義を感じてしまう。それでも、初監督作として他にはない気味の悪さ、禍々しさを持ったホラーを創り出してしまう才能には頭が下がる。年末公開予定の『サンクスギビング』も含め、今年はホラーで映画納めというのも悪くはないだろう。
Yoshishun

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