ツクヨミ

ピストルライターの撃ち方のツクヨミのレビュー・感想・評価

ピストルライターの撃ち方(2022年製作の映画)
4.3
ジメっとした日本特有の田舎描写とヌーヴェルヴァーグ的男女トリオ要素がベストマッチ。
予告編にてちょっとした近未来田舎もの的な印象を受けた本作を見に行ってみた。
まず設定がけっこう面白く、もし現代日本でもう一度原発事故が起き放射能が漏れたらという体で事故発生から数年が経過している話になっている。そんな片田舎に放射線汚染除去作業が行われある意味地方復興を目的に地方が逆に息づき、ヤクザが作業を支配し閉鎖的な独自の社会が築かれていた。
そんなある意味スコセッシ的な暴力が支配する社会で元々住んでいた中間管理職下っ端男とたまたま田舎に帰ってきた男.小さな社会でストレス解放的な役割がある風俗嬢としてやってきた女という男二人女一人のトリオを中心にした人間模様が今作の肝であろう、社会的な立場や暗い過去を背負った三人が相互作用しつつ仲良くなっていく前半はゴダール"はなればなれに"やトリュフォー"突然炎のごとく"みたいな様相すら感じた。わりかしキャラクターの深掘りをストーリーの中に配置しうまいこと感情移入しやすくもっていく脚本はなかなか良いと思う。
そしてやはりというかこういう日本特有のジメっとした社会問題を啓示する感じは2022年一際輝いていた"鬼が笑う"を想起させる、小さな社会で田舎で人目がつかないヤクザたち権力により虐げられる人々がまあしんどい映画でもある。だが後半のアメリカンニューシネマみたいな60年代社会反抗展開が素晴らしく気が利いていてちょっとハラハラだけどなんか切ない"明日に向かって撃て"的なラストもまた素晴らしい。なんとうまい格キャラを立たせたストーリーの持っていき方よ。
あとオープニング.砂浜での小津"晩春"のクレーンショットを想起するカメラワークやエンディングでの無人ショット繋ぎなんかは実は小津安二郎に対するオマージュかと感じるほど、全体的に現代社会問題系邦画なんだがけっこういろんな名作の香りが漂う感じが良かったなー。こういう邦画どんどん増えてほしい。
ツクヨミ

ツクヨミ