YasujiOshiba

ヴァチカンのエクソシストのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ヴァチカンのエクソシスト(2023年製作の映画)
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アマプラ。24-64。しばし迷子になってからこれを選択。いろいろオベンキョウになった。楽しめました。

ヴァスパにのったラッセル・クロウがそこそこのイタリア語を話す。悪くない。次に登場するのが旧型パンダ。屋根に旅行鞄をつんで、スペインの森を古い教会に向かう姿がよい。ぼくも昔乗ってたんだよね。ドアがペラパラでぶつかったらペシャンコになりそうなのだけど、軽快でよく走る名車。

ヴェスパとパンダを見るだけでも楽しいのだけれど、同じように楽しい組み合わせが、教皇のフランコ・ネロとラッセル・クロウ。二人が出ているだけでも楽しいよね。みていて楽しいのは、イタリア語で喋るクロウが、スペイン語で話すダニエル・ゾヴァットと交わす会話。なによりも、このふたりが十字架をかかげて悪魔を祈り倒すところは、ちょっとかっこよい。なんだか男と男の映画でもあるよね。

それにしても、悪魔が攻撃する過去の罪のなかに、パルチザン闘争のシーンが出てきたのも面白かった。イタリア史をやっていれば当然知っている話だけど、実は映画に原作を提供し、主人公のモデルとなったドン・ガブリエーラ・アモルト神父(Gabriele Pietro Amorth [Modena, 1925 – Roma, 2016] )。実在のエクソシストで、エクソシズム協会の創始者。Wikipedia にちゃんと項目が立っている。映画でも「いい本だよ」なんてセリフがあたけど、たくさんの著作があるし、出身地のモデナではパルチザンとして戦ってもいる。

アモルト神父が所属していたのはカトリック系のパルチザングループ「La Brigata Italia」。このグループのことは知らなかった。彼らの活動で、ナチスからの報復もあったらしい。そのあたりのことは勉強になる。
https://it.wikipedia.org/wiki/Brigata_Italia

ところで、このアモルト神父は、LGBT的には問題のある人で、ホモセクシャルは悪魔のささやきだ、みたいなことを言っているようだ。そういう意味では、カトリックのなかでも保守的。しかも、同棲愛を悪魔的なものだと言われると、そういう世代の人なのか、それとも宗教がそういうものなのかと、思ってしまう。

悪魔の名前として登場するアスモデウス。これもWikipediaに項目がたっている。それによると、この悪魔が引き起こしたとされる「ルーダンの悪魔憑き事件(Loudun possessions)」というのがあるらしい。1632年ごろ、アスモデウスは女子修道院長のジャンヌ・デ・ザンジュ(Jeanne des Anges)に取り憑き、悪魔払いを受けたアスモデウスは、明日の午後五時にデ・ザンジュの身体から出ていくという契約書を残したとされる。2年後の1643年、魔女裁判が行われ、ユルバン・グランディエ司祭が悪魔を呼び出したとして告発され火炙りされる。どうやらこの事件の背後には、フランス王国の実力者リシュリュー枢機卿の陰謀があったという。

https://ja.wikipedia.org/wiki/アスモデウス

この事件を扱った戯曲や映画はいくつかある。ケン・ラッセルの『肉体の悪魔』(1971)もそのひとつだ。未見なので、これはみたいところ。アスモデウスというのは、愛と欲望の悪魔と呼ばれているらしいけど、ラッセルの『肉体の悪魔』はまさにそれ。スタイリッシュな演出で怖いくらいのエロスが爆発しているみたい。みなきゃ。

この『ヴァチカンのエクソシスト』でも、そいういう演出はあるのだけれど、ラッセルほど強烈ではない。男二人がそれぞれ、絡みのあった女のエロスに圧倒されるという演出は、まあそういうところに繋がってゆく。映画はこういうのが楽しいんだよね。
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