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役者のcyphのレビュー・感想・評価

役者(1948年製作の映画)
3.5
初ギトリ 変な映画!元ネタになってる演劇を知ってたらもすこし楽しかったんだろうけど 濱口竜介が本作を絶賛する文脈はわかるけどどちらかというと暗澹たる3年間の直後に撮られた、ていう背景のエモが先行する作品に思えた 途中出てくる友人の姪の問答無用の美しさには楽屋裏という冴えない空間をステージに変えてしまう威力があって凄かったし、ギトリが7番目の妻となる彼女に贈ったプロポーズの言葉(坂本安美さんアフタートークより)などエピソードの強さもある 実話が元だということを念頭においても、電撃的に恋に落ちた相手が「台詞ぜんぶ言えます」と立ち上がった瞬間に見えた夢、そして儚い現実とのギャップはリアルな嫌さでよかった

坂本安美さんアフタートークメモ↓
戦後に撮られた傑作のひとつ 戦後すぐに逮捕、60日拘留、無罪判決までの3年間は公的な活動ができなくなった それまで毎日舞台に立ち年に数本映画を撮っていたにも関わらず 3年経ち、ついに撮れるとなったとき 父リュシアン・ギトリの自伝映画 サッシャ・ギトリは当時63歳で、父そっくりになっていた 汚名を晴らしきらず罵声を浴びせられていた彼が非の打ち所がない父を演じるということ

役者
第一部 子どもであるリュシアン・ギトリが演劇にのめり込んでいく中に、現実と舞台が混在していく

第二部 演劇と女性 リュシアン・ギトリも女性遍歴が豊かな男だった リュシアンに恋に落ちる友人の姪役のラナ・マルコーニはルーマニア出身のギトリの5番目の妻で、3番目の妻とのやりとりも出てくる 戦後つらい時期を過ごしていたギトリは「君は僕の未亡人になる 君はその美しい手で僕の目を閉じ僕の引き出しを開けるひとになるだろう」自分の築き上げてきた世界を厳しく批判していく 演劇と愛は共に舞台に立って一緒に働くことで成り立つと示している

第三部 父と息子 楽屋のシーンでの一人二役 リュシアン・ギトリが演じたパスツールの写真 演じているひとがいてそそれを演じているひとがいて…というマトリョーシカ構造 それがギトリの核心的な部分でもある 父の分身として初めて役者として成り上がっていった ひとは誰しもだれかの分身だというギトリの世界観
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