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SISU/シス 不死身の男の消費者のレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
4.8
・ジャンル
戦争/アクション/ドラマ/ゴア

・あらすじ
時は1944年、第二次世界大戦末期
ソ連との休戦協定に署名したフィンランドはナチスドイツの武装解除とラップランドからの追放という急務を迫られていた
対してナチス軍は焦土作戦を開始
退路にある村、建物、道などあらゆる物を焼き払っていた
その最中、戦闘と決別すべく独り金の採掘を続けるフィンランドの老兵がいた
彼の名はアアタミ・コルピ
ソ連軍に家と家族を奪われ復讐の鬼となった過去を持つ男である
フィンランド最強の特殊部隊員と称される彼はその粘り強さからロシア語で“コシチェイ(不死)”と恐れられる存在だった
努力が実りとうとう大量の金塊を掘り当てたアアタミだったが、間も無くナチス兵達に遭遇
黄金を狙う彼らに襲撃を受けてしまう
しかし不運だったのはナチスの方であった
“一人暗殺部隊”アアタミ・コルピの逆襲の始まりである…

・感想
ツルハシ片手にナチスドイツ軍と孤軍奮闘する伝説のフィンランド人老兵を描いた戦争アクション作品
日本では昨年公開の話題作だったので鑑賞

老兵1人対ナチス軍、という設定から“なろう小説”的な無双作品か?と思いきや細部まで凝った作りの凄まじい作品だった
家と家族を失い軍からも見放され復讐を終えた老兵アアタミ・コルピ
敗戦が目に見えており自国に帰れば絞首刑にされるリスクがある為に金塊を狙うナチスドイツ軍
そしてナチスに捕虜とされた女性達…
それぞれの立場に戦争のおぞましさが色濃く反映されておりアクションこそかなり離れ業が多いものの人間ドラマとしての生々しさがそこにはしっかりあった

加えて最強の老兵アアタミも確かに殺傷能力が高く悪運も強いが戦闘は無双一辺倒ではない
一進一退を繰り返し傷を負えば自ら応急処置、僅かな隙を狙い巧みに敵を欺き殺していく
この過程がとにかく生々しく痛々しい物でシンプルなストーリーを補強する様にバラエティ豊かな描写で魅せられた
その痛々しさは戦闘においても強力でナチス兵を撃退する際もその場にある物を利用しながら絶妙に痛みが伝わってくる身体破壊を伴う

ここまで重厚な世界観に更なる渋みを与えるのが戦闘を終えた後のラストシーンまではアアタミが一切言葉を口にしない点
彼が孤独なフィンランド人である為、ドイツ兵との言い合いがまともに発生しないという説得力のある背景があるからこその迫力も前述の様な戦争のおぞましさを強調するピースとして上手く機能していた
ただ強いて言えばフィンランド人はフィンランド語を話し、ロシア人はロシア語を話していたのだからドイツ兵もドイツ語を喋っていた方がリアリティーがあったのではないか?という事だけは引っ掛かった
まぁ当時の情勢的にナチスドイツ軍にいるからと言って全員がドイツ人とは限らないのかもしれないし史実的にどうだったかは知らないけども

また後半からアアタミに捕虜達が加勢するという展開も素晴らしい
単なるマチズモ表現の作品では終わらせず蹂躙されてきたであろう女性達が銃を取り戦う姿は哀しくも格好良かった
そして些細と言えば些細な事ではあるけれど動物の扱いもバランス感覚が良い
愛犬は死なないが地雷によって馬は爆死する、というのは戦争映画らしいリアリティを密かに強化していた様に思う
7章に分けた構成も各シークエンスで描く物を明確な物として固め、ナチス同士以外の会話がほぼ無いに等しい作品でありながらもストーリーを分かりやすくさせる物として秀逸だった

最後に何と言ってもリベンジ系アクションの醍醐味とも言える戦闘や殺害の描写がバリエーション豊かだったのが飽きさせず目を惹かれる最大の要素だろう
刃物、銃、ツルハシ、地雷、戦車、素手、爆弾…
これでもかと言うほど戦場ならではの武器を活用した描写はどれも圧巻だった
死体をしっかりと映すのも戦争映画として大正解だろう

世界観や描写がブレる事なく現実味とエンターテイメント性の塩梅もちょうど良くドラマ性も濃厚でゴア描写も意義ある形で豊か
個人的にはケチを付ける部分が全く無い文句無しの名作だと感じた
強いて言えば絞首シーンのアレは破傷風にならないのか?くらいかな
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