ぶみ

アナログのぶみのレビュー・感想・評価

アナログ(2023年製作の映画)
4.0
会いたい。たとえ何があっても。

ビートたけしが上梓した同名小説を、タカハタ秀太監督、二宮和也、波瑠主演により映像化したドラマ。
デザイナーである主人公と、喫茶店で偶然出会った携帯電話を持たない女性との恋愛模様を描く。
原作は未読。
主人公となる手作り模型や手描きのイラストにこだわりを持つインテリアデザイナー・水島悟を二宮、携帯電話を持っていない女性・美春みゆきを波瑠、悟の友人を桐谷健太、浜野謙太、悟の職場の後輩を藤原丈一郎、二人が出会った喫茶店「ピアノ」のマスターをリリー・フランキーが演じているほか、坂井真紀、筒井真理子、宮川大輔、佐津川愛美、鈴木浩介、板谷由夏、高橋惠子等が登場。
物語は、みゆきが携帯電話を持っていないことから、毎週木曜日に喫茶店で会うこととした二人が描かれるのだが、前半は、悟とみゆきが出会い、お互い木曜日が徐々に楽しみになっていく過程が描かれており、ここまででも十分クオリティが高く、一本作品を作ることができるのではと思わせるもの。
そして、突如みゆきが喫茶店に現れなくなったことを発端に、後半は一気に物語が動き始めるのだが、決してこれ見よがしなあざとい演出があるわけではなく、かと言って、あっさりし過ぎずという、絶妙なバランスを保っているのは、特筆すべきところはないのかもしれないが良い映画の見本のよう。
それを下支えしているのは、二宮はもとより、透明感溢れる波瑠然り、友人を演じた桐谷や浜野といった、皆ハマり役と言えるキャスティングと、その確かな演技力。
二宮、波瑠、桐谷、浜野の四人が揃う焼き鳥屋のシーンは、何気に長回しであり、どこまでが台詞でどこからがアドリブなのかわからない自然なものであるし、リリー・フランキーに至っては、先日観た今泉力哉監督『アンダーカレント』で演じた、ザ・胡散臭い探偵が一つの顔だとすれば、反対に、二人の行く末を優しい眼差しで静かに見守る喫茶店のマスターというのは、彼の個性がいかんなく発揮されるもう一つの顔とも言えるものであり、『アンダーカレント』ほど登場シーンは多くないものの、抜群の存在感を発揮している。
また、海を中心とした空間の広がりを感じさせるショットも多く、特に、二人が佇む夜の海から飛行機が離陸していく光景は、私的には名シーン。
我が家のこどもも中学生になった時からスマホを持たせており、友達とのコミュニケーションは、電話(会話)ではなく、ほぼメッセージのやり取りなのだが、自分自身を振り返ってみれば、携帯電話を自身で持ち始めたのは就職後のことであり、それまでは、例えば友達と時間や場所を約束して遊びに行ったり、はたまた時間に現れなかったりした際に、どう対処していたのか思い出せないのだが、今となっては不思議なぐらい。
街中から公衆電話が消え、駅からは伝言板が消えと、アナログなデバイスが消えゆく世の中ながら、政治を筆頭に、ルールや物事を決めたりする際に、大枠では総論賛成でYesかNoの方向性が決まっても、各論となるとグレーなことが殆どであるように、全てが0か1かで決められるわけもなく、その間のグレーな部分があるからこそ面白いもの。
例えば、クルマのメーター一つとっても、1980年代に、スピードをデジタル数字で、エンジン回転数をバーグラフで表示するデジタルメーターが高級車を中心に大流行し、先進性は抜群だったが、結局のところ、速読性や視認性といった実用性に勝るアナログメーターが復権、最近ではデジタル技術であるフル液晶を用いながら、アナログメーター的な表示をベースとするのがスタンダードとなってきており、これこそがアナログ、デジタルそれぞれの良さを融合させた典型的な例だと感じている次第。
アナログ、デジタルそれぞれ一長一短がある中で、特に人の心は前述のようにアナログで、白黒はっきりつけられないからこそ奥深いものであり、裏を返せば、点と点を結ぶ線がなければ心ではないと言え、そんな繊細な部分をキャストの確かな演技と柔らかな映像で描き出し、欠点と言えるような欠点が感じられなかった良作。

今日からずっと木曜日です。
ぶみ

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