九月

マエストロ:その音楽と愛との九月のレビュー・感想・評価

4.7
恥ずかしながらレナード・バーンスタインのことを何ひとつ知らず…一度映画館で観て、大きなスクリーンと音響設備の整った環境で観られたことに感動したものの、想像していた内容とはかけ離れていたことと、前半と後半(ちょうど画面に色がつく頃)で感情の落差が激しく辛い気持ちになり、咀嚼し切れない部分も。
主人公のことは全く好きになれない反面、その妻であるフェリシアの物語が深く胸に残る。誰にも共感の余地すらないのに、ふたりの演技にどこまでも惹きつけられ、特に途中からはキャリー・マリガンに釘付けだった。(『アリー/スター誕生』でも感じたが、ブラッドリー・クーパーの映画って、キャスティングといい描き方といい、パートナーが力強くてとっても魅力的に映る。)

Netflixの配信でもう一度観て、完成度の高い上質な映画だとしみじみ思った。
場面の移り変わり方など、今までにあまり見たことのないような面白い仕掛けがたくさんあって、特に前半のモノクロのパートは本当に楽しかった。
画面がモノクロからカラーに変化したりサイズが変わったりすることや、メイクによって時間の経過を感じられるのも良い。バーンスタインがフェリシアと出会う辺りからカラーで観たくて仕方なかったが、色がつき始めてから物語の雰囲気がガラッと変わるのが皮肉。

バーンスタインのことを知らなかったのに、才能だけではなくエネルギーにも満ち溢れ、そして人懐こくとにかく人が好きな人だということがよく分かった。
彼に向かって「才能に対する義務」という言葉が繰り返されるが、才能を発揮して成功を収め続ける人ってそれだけの欲が根底にはしっかりあって、精力的で、だからこそあらゆるものを手繰り寄せ惹きつけてしまうのかなと思う。
何もかも手に入れるように見えて、一方ではフェリシアが言っていた「気をつけないと死ぬ時は孤独な老王女」というのもその通りだと思った。

ブラッドリー・クーパーの多才さと、キャリー・マリガンの魅力に引き込まれ、ふたりともまた好きになった。
九月

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