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赦しの消費者のレビュー・感想・評価

赦し(2022年製作の映画)
3.4
・ジャンル
ドラマ/法廷劇

・あらすじ
事の発端は7年前に発生した事件
当時17歳だった福田夏奈は同級生の樋口恵未を殺害し20年の服役を求刑された
そして今、彼女が当時未成年であった事や十分な更生が見受けられた事から再審が成される事に
争点は彼女の罪ではなく長過ぎる懲役期間を再検証し釈放の是非を問う物である
被害者、恵未の父である克は娘を失ってから今に至るまで怒りと悲しみを抱え続け釈放を止める事に固執
母の澄子は克と離婚後、再婚し普通の生活を取り戻していた事もあり前に進む事を望んでいた
双方の考えに違いはあれど、娘を想う気持ちは同じ
2人は話し合いの末に証人として出廷する事となる
忘れ難い過去を思い返す事の苦しみは大きな物で公判が進む事に彼らは疲弊
意識の違いから分かり合えない事もまた心を蝕んでいった
それは1人蚊帳の外に置かれ続ける澄子の現在の夫、直樹もまた同じ
そうしてすれ違いが続く中、被告人夏奈は今まで口を閉ざして来た動機を告白し…

・感想
少年犯罪の加害者と被害者遺族を再審を通して描いたリーガルドラマ作品

抑制された世界観や被告人、夏奈を始めとしたキャスト達のリアルな芝居
それぞれの立場と心理を克明に描いたストーリー性などは優れていた
特に被害者、恵未の母を演じたMEGUMIの芝居は人としての未熟さも含めて生々しくて良かったし夫を演じたオリラジ藤森もまたそれを良い形で引き立てていた様に思う
そして何より良かったのは被告人、夏奈役の松浦りょう
罪悪感とトラウマの間で揺れ、自分の事なのに半ば外野の様な扱われ方を受ける難しい役どころを好演していて印象的だった

唯一引っかかったのは恵未の父で澄子の元夫の克
娘の喪失から夏奈への憎しみに固執し酒に溺れ作家業もまともにしていない状態
それを考えると憔悴ぶりが強く感じ取れる様なキャラクター造形や役作りが必要になってくる
しかし彼を演じた尚玄にはどれも出来ていなかった様に思う
髭を蓄え酒に溺れ仕事も出来ずに自堕落な生活を送るという人物像を考えるといささかハードボイルド的な自己陶酔の方が色濃く出てしまっており、はっきり言えばミスキャスト
それもまた娘の犯した過ちが事実である可能性を受け入れられず感情的になりがちな人格を示す為なのかもしれないけど佇まいに情けなさが見えず結果的に役にハマれていなかったと個人的には感じた

またストーリーにも粗が見られた
後半に差し掛かると夏奈は自らが受けた苛烈なイジメ被害が動機であった事を告白する
ここで彼女は主犯である恵未だけでなく女子グループが加害者であった事を明言している
にも関わらず当時の同級生に聞き込み等は一切成されない
法律や裁判に詳しい訳ではないので確実におかしいとは言い切れないけどそんな事が本当にあるんだろうか?
もっと言えば克は娘を信じたいのならば個人的に彼女達に接触する事も出来たはず
信じたいあまりにそれが出来なかった、という事なら悩む描写があるべきだろう

そして結末も若干腑に落ちない
過去に囚われる事を辞め、2人がそれぞれの道を行くという一見すると綺麗に見える締め方がされていたけど色々と解決していない問題が放置され過ぎでは?
相手が元夫で娘を殺された事件の再公判中とはいえ澄子は不倫をしていた
その上、自分の苦しみに浸るばかりで夫の直樹を遠避ける様に振る舞ってきた
それは克に対しても同様
“赦し”が出来ていても根源にある娘との向き合い方の駄目だった部分に通じる独りよがりな人格を澄子は最後まで直視出来ていない様に見えた
克はあれで良くても澄子に関してはもっとそのへんを丁寧に描き切るべきだったんじゃないか、と

監督や脚本が日本人ではない事もあってか邦画には珍しく徹底して抑制された作風が良かっただけにそういった粗がとにかく目立った
題材が題材だけに描写が上品過ぎた部分もあったし…
もっと心理のグチャグチャさを前面に出しても良かった気がする
基本的には悪くない内容だっただけにそういった部分が残念
「許された子どもたち」の様にもっと踏み込んでいれば名作たりえたかも
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