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ザ・キラーのシネマノのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.5
『圧巻の映像・展開・ストーリーテリング。デヴィッド・フィンチャーが込めたテーマに震える傑作』

現代最高峰の映画監督、デヴィッド・フィンチャー【ザ・キラー】がついに来た。

Netflixでは11/10(金)に配信開始となるが、劇場へ行かないわけがない。
完璧主義者でもあり、その偏執的なまでに計算しつくされた映像と音響は映画館での鑑賞に限る。
さらには近年、脚本を基にした映画的ストーリーテリングにも磨きがかかっており、無双状態。
本作も例に漏れず、最初から最後まで圧巻の出来であった。

完璧主義者のベテラン殺し屋。
冒頭から、彼の独白が垂れ流され続ける。
仕事(殺し)に関する流儀、思想について、孤独な男はとにかく語り続ける。
語りと映像だけで、もう陶酔状態へ突入させてくれるのだからスゴい。

その完璧主義者の完璧な仕事に生じる綻び。
そこから、物語は全6チャプターに分けて動き出す。
自らの流儀に従い、無駄なく、美しいまでに仕事をこなす男。
しかし、ターゲットとなる者との幾度もの対峙は、自己と他者(決して相容れぬ者)との対話である。
つまり、この世界に否応なく溶け込みながら、対峙しなくてはいけないのだ。
その様が、さながらコメディ調にも感じられ(完璧な編集によるスピード感の恩恵でもあるだろう)、フィンチャーはここまで出来てしまうのかと感心が絶えない。

ノイズが絶えないこの世界で、男は音楽(ザ・スミス)を聴くことで心の平静を保とうとする。
そして、この世界で他者と対峙して仕事をこなす度に、迷いなく自らの持てるものを用い、捨て去ってゆく。
6のターゲットそれぞれが一筋縄でいかず、一級サスペンスも健在である。
加えて、中盤で迎えるアクションシークエンスが凄まじい。
カット割り・展開・音すべてが、超高品質で驚いた。
世界を見渡しても、これだけのアクションを撮れる監督は指折り数えられるくらいしかいないだろう。

そして

ここまでの男の仕事ぶりと、フィンチャーの完璧な仕事ぶりに気付かされる。
これは仕事(殺し屋)映画であり、フィンチャー自身による仕事(映画)映画なのだと。
フィンチャー自身、完璧を目指しながらも、世界(映画界)のノイズと対峙せざるを得なかった男。
そんな彼の独白とけじめが重ねられており、そしてそれがこの上なく面白いのだ。

終盤、大女優ティルダ・スウィントンが満を持して登場し、男との対話が繰り広げられる。
そこで語られる”仕事についての真意”と、男がたどり着く運命の果て。
ハッとさせられたまま、エンディングまで駆け抜ける。

男(=フィンチャー)は何を求め、このドラマの果てに何を得るのか。
彼のフィルモグラフィーでもかつてない結末に、頂点に立つ者の仕事と世界に対する視線を見る。

間違いなく今年一番、脳汁が出続けた極上の映画体験であった。

フィンチャー作品特有の闇に埋め尽くされつつ、計算された光が美しい映像。
今回は音楽の響きひとつとっても、そして素晴らしいアクションまで超一級品がズラリ。
気になるのであれば、その全てを堪能するためにも、Netflixでの配信待ちでなく劇場での鑑賞が絶対にオススメである。

▼邦題:ザ・キラー
▼原題:The Killer
▼採点:★★★★★★★★★☆
▼上映時間:118min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞
▼鑑賞劇場:ヒューマントラストシネマ渋谷
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