マインド亀

マダム・ウェブのマインド亀のレビュー・感想・評価

マダム・ウェブ(2024年製作の映画)
3.5
まさに「ミステリーというなかれ」!っていうかミステリーじゃねえよ!なユルユルSSU最新作

●ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)はまだ三作品ですけど正直微妙な拡大を続けていますよね…。
もう実写はどうでもいいのでアニメ『スパイダーバース』を早く作ってくれよ…と思っているのですが、逆にマルチバースを取り扱ったの『スパイダーバース』と『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』の成功後、ゆる〜くSSUやMCUのユニバースの共有を示唆し始めました。どうにも出来が良くはないスパイダーマン不在のソニー作品と、人気の下降も顕著になるMCUの並走に、何とも言えず複雑な胸中にありました。
そんな中、本作はSSU初の女性主人公で、シスターフッドの疑似家族モノ、さらに本格ミステリー仕立てとのことでしたので、重い腰を上げて、息子と映画館に観に行きました。

●結論から言うと、正直嫌いではないです。
決して出来がいいとは言えません。ですが、見慣れたヒーロー映画とはちょっと違うフレッシュさがありました。
普通、ヒーロー映画1作目では、主人公のオリジンからヒーローになるまでと最初の敵を倒すまでが描かれます。ところがなんと今回は、主役ヒーローが誕生すらしていないというところが新しいとおもいました(将来的に20年後の未来のビジョンで示唆されるだけ)。そしてネタバレになるので書けませんが、一応SSUの今後を握る重要な場面が描かれます。登場人物の名前をよく見れば、MARVELファンなら気づくはず!
また、3人の一山いくらなスパイマー女子(になる予定の)3人と疑似家族を形成し、彼女らを守るために戦うという、これまでになく面白くなりそうな要素が満載。結果がどうであれ、なんだかよくわからないけど、新しいものを見た、という感じがしました。

●一方で本作は、MARVEL初の本格ミステリー・サスペンスと言う触れ込みで、かなり期待をしておりました。しかし、蓋を開けてみると「ミステリーとは…?」と頭を抱える結果に。
一体誰に対してのミステリーなのかがあやふやすぎました。
この作品でミステリーとされている主な謎が、
①マダム・ウェブ(キャシー)がどうやって誕生したか
→冒頭で見せる、中盤でも繰り返し説明
②ヴィランのエゼキエルが追いかけてくる理由
→序盤で本人が説明
③なぜエゼキエルがキャシー達の位置を把握できるのか
→これもご丁寧に序盤で本人が説明
④母親を殺した犯人
→これも冒頭で見せる
と、全く謎にすらなってない状況です。
本格ミステリーとするには構造に問題があって、これはもともとミステリーとして売り出すこと自体が間違いなのでは?と思いました。
冒頭のアマゾンでのキャシー出生の秘密とエゼキエルの企みを明かすパートををまるまるカットしていきなりニューヨークから始めれば、キャシーがなぜ能力に目覚めるかが謎として中盤まで引っ張れるし、また、謎の蜘蛛男が追い掛けてくる理由や、なぜ居場所が判るのか、も話の推進力になったかもしれません。
天井を這って追い掛けてくるエゼキエルはあまりにも気持ちが悪く、こんなのに追いかけられたらめちゃくちゃ怖いですよね。こんなやつが行く先々で待ち構えていたら、「イット・フォローズ」のような恐怖を味わえるはずだったのですが…。と言うか、スパイダーマンって見方を変えれば「キメェぇ〜」って感じですよね。

●むしろ、
①夢のビジュアルをどうやって写真にするのか
②ナンバーもない、ボンネットグシャグシャのタクシーを運転しても捕まらない理由
③エゼキエルはキャシーの顔とベンの顔を追跡すれば早かったのでは
④ペルーでのキャシーのカジュアルすぎる服装
⑤三人娘が選ばれた理由と能力の覚醒経緯
などなど、こっちのほうがミステリーじゃないの?と思えるツッコミどころが満載でした。

●個人的には、もっと面白くしようと思えば面白くできる要素が多いだけに残念だと思いました。
三人娘と疑似家族になるのも面白くなる要素の一つだと思ったのですが、3人のキャラクターやバックボーンをとりあえず設定しただけで、そのキャラクターを活かしたドラマティックな活躍がないのも惜しい。
正直、ダイナーのテーブルの上で土足でダンスするような道徳観のないクソガキにしか見えないですし、あの場面では、その3人に向かってキャシーのタクシーで突っ込んでほしいと思うくらいムナクソな場面でした。

●おそらく、今後展開されるであろうSSUのユニバースや、マルチバースとの整合性を合わせるのに必死になりすぎて、ドラマ本来の面白さを追求することを忘れてしまったんじゃないでしょうか。
まあ、人工呼吸のやり方やAEDの使い方(武器としての)を啓蒙する緊急救命映画としては良かったのではないか、そのくらいの感覚で見れば、まずまずの映画かもしれません。
いずれにせよ、この緩さも含めて、なんだか嫌いになれない不思議な作品になりました。是非観てください!
マインド亀

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