櫻イミト

女の叫びの櫻イミトのレビュー・感想・評価

女の叫び(1979年製作の映画)
4.0
「男の争い」(1955)「日曜はダメよ」(1960)のジュールス・ダッシン監督によるキャリア晩年のアート系作品。主演は妻のメリナ・メルクーリ。共演は「アリスの恋」(1974)のエレン・バースティン。本編内でベルイマン監督の「仮面/ペルソナ」(1966)が上映される。

ギリシャの大女優マヤ(メリナ・メルクーリ)は、悲劇「メディア」の主役を得てリハーサルを続けていたが、子殺しする女王メディアを演ずることに行き詰まっていた。そんな折、宣伝スタッフから大胆な企画が持ちこまれた。それはギリシャ中の新聞を騒がせた子殺しの女ブレンダ(エレン・バースティン)とマヤが刑務所で面会するというものだった。。。

前半、劇中のスタッフ・キャストが「仮面/ペルソナ」の上映会を開き「ベルイマンは我々に自信を失わせる」と語り合っている。ダッシン監督の7歳年下となるベルイマン監督に対して、何とも潔い台詞だ。これを免罪符としたのか、本作は非常にベルイマン的な映画だった。演劇モチーフ、女優論、女性性、自他の同一化、キリスト教と、どのテーマも重複している。しかし難解すぎることはなく、スリリングに楽しめるように作られているのがダッシン監督の腕前だ。ベルイマン映画をエンターテイメントに昇華させたような映画だった。

ただし、最低限「メディア」を知らないとあまり楽しめないかもしれない。自分はパゾリーニ監督「王女メディア」(1969)、ラース・フォン・トリアー監督「メディア」(1988)を観ているのですんなりと理解できた。メディア役としてはパゾリーニ版のマリア・カラスが有名だが、本作のメルクーリの方がずっとハマっていたように思う。子殺し女を演じたバースティンも“性的女性”の狂気が伝わる凄い演技だった。あまり注目してこなかったので近いうちに「アリスの恋」を鑑賞してみたい。

何度もリハーサルされる映画内演劇の演出が魅力的で舞台を通しで観てみたくなった。女優と素顔、虚構と現実の対比、モニター再撮、メルクーリとバースティンの同一化など、映像・演出共に入れ子構造が凝らされて、とても好みの一本だった。

ダッシン監督は本作の後に作ったB級恋愛映画が最終作となった。かなりのインテリだったそうなので、フィルム・ノワールだけでなく本作のような作品を残せたことは本望だったのではないだろうか。

※同時期のベルイマン監督作品
「秋のソナタ」(1978)
「夢の中の人生」(1980)
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