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せかいのおきくのmuraのレビュー・感想・評価

せかいのおきく(2023年製作の映画)
4.5
「肥溜め」から始まるとは!

なかなかの怪作。でも、面白い。幕末の人びとの生活をリアルに想像して描き、そのうえで喜劇に仕上げている。

汚穢屋(おわいや)の矢亮。江戸で集めた屎尿を郊外に運んで金を稼ぐ。それを手伝うことになった中次。中次が密かに思いをいだくのがおきく。おきくは木挽町の次郎右衛門長屋に父とともに暮らす。この3人が時代や社会に翻弄されながら必死に生きていく様子を描く…

白黒の映像。往年の日本映画を意識してのものか。でも、よく作りこまれている。映像にも違和感はおぼえなかった。ロケハンや美術制作にこだわりを感じた。

矢亮と中次は、屎尿を扱うがゆえに蔑まれる。ときには冷たい仕打ちを受ける。身分制度によるものともいえるが、この人びとの冷たさは、また「クソのような世の中」は、現代にも通じる気がする。映画はそれを訴えるものかと。

そしてタイトルではよくわからなかった「せかい」。幕末の若者たちにとっての「せかい」とな何なのか。我々にとっての「せかい」と異なるようでいて、同じようでいて…。いずれにしても「せかい」というものをあらためて考えることにつながった。

で、やはり佐藤浩一と寛一郎の親子競演に目がいく。ああいったかたちで競演させた阪本順治のセンスに好感。このあたりも喜劇として成功しているなと。
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