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波紋のmuraのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
4.6
傑作だと思う。少なくとも上半期マイベスト。ここのところ映画館から足が遠のき気味だったが、時にこういう映画に出会えるからやめられない。

手入れのため庭に出た夫がそのままいなくなった。数年後、子どもは就職して家を出て、妻はひとりで暮らしていた。妻の心を支えてきたのは宗教。「神聖」とされる水を飲み、頭に吹きかけ、心の安定を保つ。そこに突然、夫がもどってきた。ガンだと言って…

クセのある(いい)役者が集う。もったいないと思えるほどに。この役者たちの演技と、これまたクセのある監督の演出が相まって、それぞれの人物が、いわゆる「キャラが立つ」。

とりわけ聴覚に障害がある役者の起用なんて、まさに慧眼。これをやられると、健常者の役者が障害者を演じることにもう「うまい」なんて思えなくなる。

「水」とはいったい何なのか。原発事故後の水は不浄なものとなり、宗教家が聖水と言うものは清浄なものとなる。ともに「水」でありながら。また、水をたっぷり使ったガーデニングの庭園は美しいが、一方で水をまったく使わない枯山水の庭園も美しい。「水」があろうがなかろうが。

「水」を題材に、いろいろなことに考えがめぐる。多様性についてもそう。宗教は妻に寛容であることを求め、妻もそれに応えようとする。もちろん心の平穏を願ってのこと。ところが心の平穏は、寛容を捨てたときにこそ訪れる。妻は不穏だが、幸福そうな笑みを浮かべる。

多様性の必要性を説く映画はこれまでいくつも見てきたが、この映画はその実現が極めて難しいことにまで切り込む。だからリアル。そして深い。

最後のシーンがとにかく素晴らしい。忘れられない。演じる筒井真理子はもちろん、演出も、そして何と言っても映像が素晴らしい
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