『怪物とはそれそのまま”怪物”に非ず。人の心と目のフィルターを通してのみ顕現するただ怪しき物であるだけ』
是枝裕和×坂元裕二×坂本龍一、そして田中裕子
最高峰の布陣による端正なヒューマン(サスペンス)ドラマであった。
視点・時系列をコロコロと変えながらも、非常に分かりやすく、伏線も回収していく本作を丁寧と取るか、観客に委ねなさ過ぎると取るかで、評価は分かれそう。
(個人的には、もう少し観客を信じて欲しかったところもあった)
また、坂元脚本に見られるコメディタッチやふいに真理をなぞるような、"ミゾミゾ”する味を抑えつつ(もちろん随所で素晴らしい言葉が出てくるが)、是枝演出との融合は果たされていたと思う。
肝心な作品の中身であるが、本作のファーストティザーが公開された当初からしきりに謳われていた「怪物だーれだ」という言葉。
シンプルな、誰かの目には写る悪者を探すというテーマそのものがミスリードであったことは、作品を通して、また観客への問いかけとなるテーマとして、見事であった。
作中、怪物当てゲームが出てくる。
それは、自分が掲げる怪物を相手の導きによって当てるゲームである。
ただし
そのどれも怪物ではない。人間と同じ生き物であり、その断片を切り取られた特徴により、怪物と断定されるだけ。
(作中の)人間もそうである。自分はそうでなくとも、親は、誰かはそうでなくとも、どこかの視点で怪物は顕現する。
それは本人によってか、否。
それは、視点を変えればか、否。
それは、その時々であったか、否。
それは、それぞれの人間の心と身体的な視覚を通して顕現する怪しき物である。
しかし
それこそが、その対象となる人を、社会的地位を、ロマンスやドラマや、未来まで決定づけてしまう。
解放はない。
だけど、自由を求めてなにが悪い。
理解をしたいと思う、それもまた”怪物”に、嘘と真のなにが分かるのか。
カオスな世の中にあって、迎合してしまう人生の前夜。その人生に誰も文句は言えぬ。
賛否を呼んだテーマ含めて、この作品がぶん投げてきたことに、映画の楽しみってあるよな。
そう思い、自分は大いに楽しめた一作。
(皆の意見もまた聞きたいし、高評価/低評価にかかわらず、議論されるのが正解な作品であると思う)
▼邦題:怪物
▼英題:MONSTER
▼採点:★★★★★★★☆☆☆
▼上映時間:126min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞
▼鑑賞劇場:T・ジョイ PRINCE 品川