カテリーナ

怪物のカテリーナのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
是枝裕和➕坂元裕二のケミストリー

Sankei newsの記者会見での彼の言葉に
タクシーの中で受信したジョン・キャメロン・ミッチェルからのお祝いのメッセージを読んで嬉しくて涙が出たと言っていた
その言葉の意味を最後のシーンを見るまでは分からなかった
坂元裕二が一日の殆どを机の前で過ごし
白いパソコンの画面に
コツコツと、文字を書き連ねて行く
もう閃きは起こらない 頭の中はもう、枯渇してしまった
それでも必死で机にしがみついて
なんとか捻り出した 
そうして産まれたこの脚本は素晴らしく
彼の苦しみは身を結んだと安心した

カンヌで脚本賞を受賞し
彼の苦労は報われた
記者会見で彼は素直に喜びの言葉を
述べた でも喜びは泡沫
明日からはまたパソコンの前で
ただひたすら文字を書き連ねて作業を
重ねるだけだと、こんなに脚本家の
仕事が苦しいのだと露呈したのは
私の記憶の中で彼が初めてだった

そして、劇場で鑑賞した私に
俳優たちの台詞が私の中に水を含んだスポンジのように染み込んでいった
なんと、苦しい体験だったろう

物語の始まりは宝石のような
街にサイレンの音が鳴り響く夜だった
小学校で起こるある事件を通して
母親の視点 教師の視点
子供の視点と続く所謂、羅生門形式で
綴られる
母親の視点は一見モンスターペアレントの様相だが学校側の対応が最低で
通りいっぺんの詫びをいれるだけに留まり心からの謝罪からは程遠い (校長演じる田中裕子はまるでロボット?)子供への虐めの真偽をる確かめたいのに
その前に途轍もない壁が立ちはだかる
あの、安藤サクラの表情は私の心情と重なる 加害者と被害者を逆転させる力のある
芝居が秀逸だった
教師の視点では、
目を背けたくなるシーンの連続で
いたたまれない気持ちに陥る
安藤サクラの視点からの180度真逆な
教師が描かれる 永山瑛太の善人も悪人も演じ分ける技術が作品を押し上げるのに成功している
そしてある意味答えを提示してくれる
子供の視点では 想定外の展開が待っていた もう、言葉にできない素晴らしさ
あんなに素敵な朝の風景は
初めてだった
直近の2作に少し気落ちしていた中、
『万引き家族』の時の是枝監督が
帰ってきたような私にとって嬉しい
映画体験となった。
やっぱり、是枝作品はこうでなきゃ

言及したい事が後から後から
溢れてきて、キリがない

空の青と森の緑の間を吹く
そよ風のようなピアノの旋律が
疲弊した心を撫でる
坂本龍一の音楽が素晴らしかった
エンドロールの最後に
坂本龍一さんのご冥福をお祈りします
の文字を認めて灯りのついた劇場から
なかなか立ち上がる事ができなかった

今年一番の傑作である。
カテリーナ

カテリーナ