ryosuke

ゴジラ-1.0のryosukeのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.7
 冒頭、ゴジラの登場シーン。パッとサーチライトを向けられたと思えば既に殺意を充満させているゴジラ。無駄な前振りがないこの登場は、ゴジラの理不尽さと凶悪さを存分に引き立てており、カメラ目線での咆哮にはにっこりしてしまう。小さな人間の目線が強調される低い視点から仰角でゴジラを捉え、彼らの虚しい抵抗があっさり踏み潰され、放り投げられる様をロングテイクで映し出したショットも、対ゴジラに相応しいカメラワークで素晴らしい。
 ゴジラが出ているシーンは例外なく楽しいのだが逆にいうとゴジラ不在のシーンは......。序盤、戦後の主人公に相応しい「心の傷」を刻印するためだけのシーンが異常な速さで重ねられ、人工的だなあと思っていると、掃海艇の面々の初登場シーンに至るのだが、これまた人工的なキャラ立ちをさせるための台詞と演技でウッとなる。神木隆之介が危険な仕事に赴くことに反対する浜辺美波。感情剥き出しの大声の張り上げ合戦が実に嘘臭い。
 というわけで、ドラマシーンは基本的にどうしようもない。十把一絡げに邦画の悪癖を批判するのは疑問だが、久々にその手の批判を受ける要素が凝縮されたドラマを見て食らってしまった(個人的にスルーしてるだけでありふれているんだろうけど) 。ドラマで蓄積されたフラストレーションがゴジラが出るたびに解消されるという流れなのだが、思ったよりもゴジラ出現シーンが短いのでギリギリと求心力が落ちていく。
 銀座のシーン。ゴジラ映画に期待される街の破壊はしっかり見せてくれるのだが、ここでの浜辺美波の扱いがね......。ゴジラの話を聞かされてすぐに受け入れている段階で若干の違和感はあったのだが、ゴジラを見たファーストリアクションがあのとき聞いてたやつねーぐらいのもので不自然極まりない(その窓ガラスにゴジラを反射させたりするのは良いんだけど)。他で過剰演技させといて何でここではこんなに冷静なのか。列車が傾いて鉄棒に掴まる浜辺を見て吹き出してしまった。どこのアクションスターなんだ。アクションスター浜辺は神木を路地裏に押し込んで爆風で吹っ飛んでいく。こっちが悪いのだろうか......なかなか真面目に見ることができない。
 とはいえ、最終決戦の迫力は流石で大作の醍醐味をしっかり感じることはできる。突如船舶が宙を舞うことで開始するクライマックス。戦闘機を捕食しようとするゴジラの頭部の周囲をぐるぐると飛び回る様など流石にダイナミックで見応えあり。
 ゴジラを大胆に上下に動かす作戦も視覚的に面白い。海底で青い光がフッと消える瞬間など素晴らしい画だ。しかしここでも、本作で何度も繰り返されてきたテンプレ台詞である「やったか?」が重なって脱力させられる。こういうことの繰り返しなのだが、それでもカメラに向かって浮上してくるゴジラの画にはテンションが上がる。観客は、映像の迫力と演出の薄ら寒さの間で揺れることを強いられる。
 熱線を準備するゴジラに対し、音が消える中で仲間たちの顔を順に映し出していく余計な演出はともかくとして、その口に戦闘機をバクッと咥え、頭部が崩れ落ちた後に青く発光しながら崩れ落ちていくゴジラの神話的な姿は素晴らしい。脱出装置の存在に関しては、整備工場のシーンで意味ありげにロングショットに切り替えて会話を聞こえないようにした時点で分かっていたことをわざわざもう一度喋らせる親切設計で、実に客を舐めた作りだと思うのだが。
 ラストの展開にも特段の驚きはない。遺体が見つかっていないことから当然想定されるサプライズを告げる電報を受けて病院に急行すると、浜辺美波はヒロインに相応しい程度の怪我をした綺麗な体で登場し、嘘くさいドラマを嘘くさく締めくくろうとする。海底での開かれた結末もベタ中のベタ。それでも予算のショボい凡作を見るよりは全然いいんだろうな。
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