なだ

ゴジラ-1.0のなだのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
5.0
観終わって、映画ではあまり見かけない舞台劇のような感情を大きく魅せる芝居が私には相性が良かったと思う。

特に敷島役の神木隆之介の戦争で生き残ってしまった者の苦悩や葛藤、逃げてしまった後ろめたさ。

戦争から逃げること、生き延びてしまうことがそんなに引け目に感じなければいけないのか?
逃げても良いじゃないか…と私は思うが、当時を生きた人にしか解らない思いなのだろう。

敷島の心の負債を見事に表現した神木隆之介に感嘆する。



太平洋戦争末期。特攻隊で出撃したが、機体トラブルで大戸島に着陸する敷島(神木隆之介)

そこでゴジラに遭遇する。


整備員しかいないその島でゴジラに砲撃出来るのは敷島ただ一人、だが恐怖のあまり攻撃出来ず整備員橘(青木崇高)と2人だけが生き残る。
「お前がゴジラに攻撃していれば…」ここでも橘に責められる敷島。

(特攻隊出撃地は主に九州方面だが距離的にたどり着けるのか?と思うがここは保留)



「大戸島」に伝承される禍津神ゴジラ。
背中から青い光を放ちその禍々しさは迫力と恐怖を感じる。

この土地名が出て来た時点で、本多猪四郎の第一作ゴジラの流れであると思った。
一作目は1954年、ビキニ環礁水爆実験(1945年)から着想を得たのが第一作
一作目の前時代だからマイナスと付けた意味合いもあるのかな。


銀座を襲うシーンなど第一作を意識した演出。電車をくわえて持ち上げるシーンもオマージュされている。
ゴジラの足元から見上げるカメラワークも良かった。


日劇や「TOKYO PX」の看板をかけさせられた和光が吹っ飛んでいる。もしかして帝劇の横にあった進駐軍GHQ本部もこっそり破壊してる?

社会的に政治に不満が高まると国会議事堂などゴジラが壊すと痛快に思える建築物。
米軍占領下ではその辺も痛快ポイントなのかな
(PX…米兵士用の基地内販売店。米軍に接収された松屋や和光も当時これにあたる)


安藤サクラの何もかも無くした当時の女性を代表するような怨みのこもった瞳も見逃せなかった。
そして戦争孤児のあきこを預かり子どもを慈しむ母親の心が蘇る。
復興の描写が早いように思うが、彼女の演技で生活の様子がよく解る。


対ゴジラに名乗りをあげる人物は、戦争から命拾いをした元軍人や兵士達や技術者
「国のためではなく家族を守るため」ゴジラ退治に参加する。

戦時中よりも生き残れる確率があるというセリフは(やるな👍脚本!)と思った。

無謀な戦争の末にお粗末な装備で戦地に送り出され、補給もままならず餓死した大勢の日本兵。そこもちゃんと拾っている。

メンバーから外された水島(山田裕貴)がダンケルクよろしくやって来る所は不覚にも感動して泣いてしまった。


ゴジラを退治した時点でハリウッドなら大喜びする人々の描写があるだろう。
しかしゴジラと戦い葬った人々は只々静かに敬礼して見送る。

この怪物を禍津神として沈みゆく生き物に敬意を払い追悼する気持は八百万の神と暮らす日本ならでは描写なのだろうか。私はこのシーンにも感動した。

全ての人物が助かった脚本は、多少ご都合主義にも思えるが、「助かる」事で太平洋戦争で亡くなった魂への哀悼の意を汲んでいるように思える。


役者、撮影技術、脚本全て揃って満点💯です👏










【余談】
今回ゴジラにも使われた「情報統制」

戦時中、情報統制によって隠された大地震が3つある。

1943年鳥取地震、1944年昭和東南海地震、1945年三河地震。(1946年昭和南海地震は戦後)いづれも大災害級の震災だった。

鳥取出身のお客様にその話を聞かなければ私は今も知らないままだ。学校でも教わらない。

今回のゴジラもその情報統制を巧みに使いゴジラによる災害を隠そうとする。
この国の隠蔽体質を揶揄しているようだ。
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