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ゴジラ-1.0のnatsuoのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.2
「ごめん、響かない」

2016年。当時の僕は小学生。その4年前にエヴァQを親に見させられて併映の『巨神兵東京に現る』がトラウマだった僕は『シン・ゴジラ』を楽しみにしつつもビクビクしていた。またあのトラウマを味わうのではないか、と。そしてちゃんとシンゴジラには度肝を抜かれた。正に自分が見たいものが詰め込まれている完璧なまでの怪獣映画だった。シンのあの劇場体験は今でも忘れられない。圧倒的な恐怖のビジュアル、進化を遂げる蒲田くん、全てを焼き尽くす放射熱線、東京及び関東圏の崩壊、政治機能の麻痺、米軍含む多国籍軍の介入、そして決死のヤシオリ作戦という、もう語り出したらキリがないくらい魅力たっぷり詰め合わせパックだった。実際僕はこのレビューを書こうと思った矢先品川くんに会いたくなって再鑑賞してしまった(恐らく10回以上目)。
そんな大傑作鎌倉さんのバトンを受け取って世に放たれたのは本作-(マイナス)くん。まあその前にレディプレ、アニゴジ(3作くらい)、KOM、vs猿があったわけだが、母国純日本のゴジラ作品はおよそ7年ぶり。ゴジラ生誕70周年というタイミングで-くんが登場した。そして問題獣を造った問題児庵野坊やのバトンを受け取ったのは、山崎貴監督。ALWAYS三丁目の夕日で人気を獲得し、以降ヤマトや寄生獣を実写映画化、ドラえもん、ドラクエ、ルパンを3DCG化して話題になった。ご存知の通り毎作毎作白組と手を結び、国内ではトップクラスのVFX表現をみせてくれる。ヒューマンドラマ、ストーリー性が濃く、彼の作品に感動させられる人は多くいるそう。上記主な作品群の通りこれほどまでに幅広いテーマを扱いながら、1,2に一本のペースで安定して感動的なストーリーを生み出せるのは、最早"職業監督"としての実力が光っている部分であろう。
...しかし僕はなんと山崎監督作品を一本も観たことがない!!!ALWAYSもドラえもんも何も観たことがなかった。知っていたし予告も毎回視聴しているのだが、個人的に山崎監督作の白組CGがどうも気に入らなくて...。また、予告や事前情報から漂う臭いヒューマンドラマも自分は受け入れ難いタチで、実際色々な人の批評を拝見してやっぱり、と思うことが多い(上で言ったことと違いすぎる笑)。
そんな監督によるゴジラ最新作の舞台は、戦後全てを失った日本。東京大空襲、2度の原爆、死者数も尋常じゃなく政治、軍事機能も麻痺している我が国に容赦なくお邪魔してきたのは恐ろしく巨大で凶暴な怪獣。ある島で"ゴジラ"と呼ばれるそいつは、戦後の日本を悉く破壊していくのだった。軍備を縮小された上米軍の支援もない中、日本はどうこのゴジラに立ち向かうのか。先の戦争による喪失感に立ち向かい、生きて抗う決意をする日本人たちのアツいヒューマンドラマ×怪獣映画。


くっそー全くもって響かなかった。本当に悔しいくらい面白いと思えない映画だった。やっぱり臭すぎるヒューマンドラマ、一切の恐怖を感じない-くんで、もう自分はダメだった...。
まず、見たいのはドラマじゃない。シンのような、ハリウッド版のような、圧倒的で恐ろしいゴジラのアクションパート。身震いするほどの絶望を味わいたい。目の前にいるゴジラに心底恐ろしいと思いたい。そのもののビジュアルでも画でも撮り方でも攻撃でも犠牲,被害の量でも全てにおいて圧倒的な力を見せてほしい(シンはやはりそこが卓越的だった)。しかし本作は、もう一度言うが、-くんに一切の恐怖も感じなかった。そもそも予告段階からビジュアルがそんな好きじゃなかったのだが、何故ハリウッド寄りのムチムチ恐竜っぽくなっちゃったのか。ビジュアルアートも立体物も拝見したが、どうしても大きくなった爬虫類感が拭きれずかっこいいというよりかわいいに近い印象。なんか喋りそうな顔してるし、両後脚ぶっとい割に顔含め上半身はかなりしゅっとしているし(スタイル良すぎ!!!)、なんかちょっと親しみやすいけど怒ったら怖い体育会系の先輩みたいな感じ?これは完全に好みの問題だろうが、やっぱシン(鎌倉さん)のスタイリッシュでありながら不気味すぎて近寄りたくない雰囲気が恐ろしいほどかっこよかった。アクションパートも心躍るような演出が少なく、斬新かつ合理的な作戦とかその作戦立ての面白いパートとかそういうのが欲しかった。銀座のシーンや相模湾沖の戦闘シーンもあーかっこいいねくらいで胸が熱くなることもなかったように感じる。これは全編を通して言えることだが、あくまでこういった画をつくりたいが先行している感覚がある。熱戦を吐くゴジラ、それで崩壊する街、そしてその先には空を覆うほどの爆雲。その画をただ描きたいが為になんとか前後の辻褄を合わせてアクションドラマシーンを構成しているイメージ。だからこそアクションパートの重厚感は非常に薄れる(というか緩急を無理矢理つけている印象)し、後に述べるドラマパートもどこか消化不良なところがある。
そしてゴジラで本来描かれるべきアクションを除いてまで描かれたのはヒューマンドラマ。本作は8割ヒューマンドラマ2割怪獣映画という塩梅だったと思う。しかもそのドラマがとても臭くて仕方がない。最早流石にないだろうと予想が逆にできない展開で驚いたほどだが、今の時代にここまで王道で臭いストーリー展開を行うドラマはなかなかみないのでは?(自分の鑑賞傾向にもよるか) 全て先が読める演出、だからこそサプライズがないドラマ&アクション。2時間ずっと何かとんでもないものを期待していたが、結局予想を裏切られることはなく終わってしまい不完全燃焼だった。「生きる(生きて抗う)」というテーマに重きが置かれすぎていたイメージ。本当に恐ろしい怪獣、ディザスタームービーなのだからあのように綺麗に片付けられてしまったのは困った。2時間というちょうど良い時間ではあるものの語れていないことが多すぎる。ゴジラをよく知らない人もいよう。戦争の細かい背景なども知らない人がいよう。戦争、戦後、そして当時の日本や諸外国の情勢についてもきちんと描き、一歴史を扱う映画としてはゴジラよりも恐ろしい人間の非道を包み隠さず若い世代に伝えるべきだ。ゴジラだから見よう、話題だから見ようと来てくれた観客に、少しでも戦争の恐ろしさをぶつけるべきだったのではないだろうか。前提としている要素が多すぎて映画慣れしている人や歴史慣れしている人でないときちんとついていけないのではないか(話自体に難しさはないが、それを面白いと思えるかが肝となっていたと思う)と感じてしまう。多くの展開が用意されている中それを2時間で描き切ることは本当に難しい。シンのようにもうヒューマンドラマ一切なしでただ怪獣をぶっ倒すだけの映画とは違うだろう。しかしそれでも尺の足りなさが目立った。登場人物たちに感情移入もできないまま彼らが生きるか死ぬかを描かれても私としては困ってしまう。明らかに感動させようと目に見えるシーンでも微塵も感動できなかったし、なんか退屈というより申し訳なく思ってすらいた。キャラクター一人ひとりの行動の動機や決意に納得はする。するんだが、それまでの経緯やバックグラウンドが描かれなさすぎてそこをこちらでよく考えろと言われているようで興醒めしてしまった。特に、台詞が本当に多い。経験豊富や演者陣を揃えたことでなんとか成立しているように感じたが、台詞だけでその人物の背景や意思を表現するのはかなり鑑賞者のレベルが問われてしまう。僕のようにはなからドラマを見る気分でない人やあまり映画やドラマ慣れしていない人には追いつくのが精一杯だったことだろう(僕も全部きちんと追いきれた自信はない。だから不満なのかもしれない)。
ネタバレは控える為多くは語れないが、先も言った通り予想のつかないサプライズも予告以上のアクションパートもなかった。監督がこれで良かったのか、それとも何か我々にはわからない要因があったのかそこはわからないが、少なくとも不完全燃焼で上手にまとまりきれてはいなかったと感じる。


個人的にはかなり残念だった作品に終わった。期待していたからこその結果かもしれないが、観たかったのはこれじゃなかった。とても個人的な意見ではある(シンをここまで褒めている人も少ないだろうから)が、シンの良かったところを全てマイナスしてお得意のヒューマンドラマをプラスしたイメージ。それが上手く活きたのかと言われると、私はNOと答える。そもそもだがゴジラでやる話ではなかった。全く新しい怪獣にするでもいいし、情勢的に厳しそうだが米軍の新兵器が暴れだしたとかでもいいし、とにかくゴジラでなければもう少しは良かったのかもしれない。"ゴジラ"というブランドを借りている中、我々が見たいものを提供できているとは思えなかった。改めて、これはとても個人的な意見だが。

しかし改めて世間の意見を見てみると、そこまで自分は捻くれていたのか?と唖然してしまった。公開2日後に鑑賞した為ある程度初日の方々の感想は知っていたし、ここまで大々的に宣伝している作品だったので悪いことはないだろうと思っていたのだが...。シンがそこまで絶賛されていない(興行的な面はとんでもないが)ことと、本作が逆に絶賛されていること、なかなか世間とは解釈が合わないというのは虚しいことだなと思う。


P.S.)『三丁目の夕日』の続編だと度々言われていて、両親にもとりあえず三丁目の夕日は観ろと言われました。まだ観てないけど、なるほど、本作もそういう方向性を踏んで、このような形になったのね。三丁目の夕日を見ればもう少しは納得するかもしれないですね。

[IMAXレーザー]

2023.11.05
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