なべ

ゴジラ-1.0のなべのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.7
 おもしろかった。手に汗握った。50mって背丈もリアルな恐怖と存在感を感じられるサイズ感だったし、カメラがギリギリまで寄っていけるCGのディテールも最高、戦いの場を主に海に絞ったのも新鮮だった。そしてシン・ゴジラにはなかった人間ドラマもあった。ドラマパートと特撮がかつてないレベルで溶け合ってたのは感動的ともいえる。
 ではシン・ゴジラよりおもしろかったかというと、個人的にはそこまでではない。リピーターはあまりいないと思うから、初速の高い興行収入も徐々に落ちていくだろう。
 なにがダメだったのか。それは役者の演技と説明的セリフ。これに尽きる。ゴジラに限ったことじゃないが、日本人の役者ってここまで落ちたかってくらい絶望的に酷かった。CGやVFXの進化はリアリズムをどんどん追求しているのに、演技のリアリズムはえげつなく後退してる。かつてないほど日本の演技レベルは落ちてるのでは? 昔の邦画を観るにつけそう思う。
 特に神木隆之介と佐々木蔵之介は物語への没入を妨げるくらいダメだった。何をそんなにがなり立てる必要があるのか。神木くんって演技巧い人じゃなかったっけ? SPECの一十一や桐島、部活やめるってよの前田はそんなに下手な印象なかったんだけどな。まあ、彼らだけを責めるのは不公平か。現実には言わないだろうセリフを書いて役者に言わせる脚本にも、リアリズムを蔑ろにする演出にも問題があるのだから。
 特攻から逃げて生き延びた非国民の演技、本当にそれでいいのか? 知らない時代のことだからわからない? そんなのぼくらだって知らないさ。
 でも例えば、鶴田浩二と高倉健が出てる『最後の特攻隊』って映画があるけど、そこでシビアにストイックに描かれた“リアル”はとてもヒリヒリしていて、魂が揺さぶられたよ。そういう演技・演出だからこそ到達できる感動領域がある。知らないなら、そういう過去作を頼るのもアリだと思う。適当に解釈するのではなく、昔の演者の苦悩や葛藤を模倣することから始めてみてもバチは当たるまい。せっかくわざわざ昔を描いてるんだからさ。その時代ならではの価値観とともに、現代にも通じる普遍的な心情に踏み入ってこそ、観客の共感を呼ぶことができるってもんでしょ。はなはだ勉強不足。海外には事前にヒントとなる作品を演者に観させる監督もいるというのに…。
 元特攻隊員の敷島浩一の苦悩のまあ軽いこと。確かに後悔や苦渋に満ちた表情はしてるけど、それじゃあかんやろ。セリフ、視線、佇まいのすべてが軽い、安い、恥ずかしい。
 黒い雨の慟哭シーンは見てられなかった。本来ならこちらも震えながら恐怖する見せ場なのに。別の意味で震えたわ。
 佐々木蔵之介に至っては、一人場違いなはしゃぎっぷりで和を乱してる。声のトーン考えて。恐れ入りやの鬼子母神じゃないよ。一人大きい芝居をするんじゃない! 残穢のレビューで書いたんだけど、それまでせっかく積み上げてきたリアリズムを一気に壊すんだよなあ、佐々木蔵之介って奴は。ゴジラ−1.0でもやってくれた。誰が焚き付けてるのか知らんけど、昔より酷くなってるんじゃないか。藤原竜也が巧いってもてはやされた頃から映像の演技がおかしくなったように思うんだが、皆さんどう? 神木隆之介も佐々木蔵之介も藤原竜也を目指しているのか?

 三丁目の夕日を観てもわかるように、山崎貴の脚本・演出ってベタ。幼児向けの絵本級。でもそのわかりやすさがウリなのね。どんなバカでもわかるっていう。米国で大ウケしそうな予感さえするよ。
 複雑なストーリーや揺らぐ価値観を描くばかりが映画じゃない。ベタなメロドラマもあっていい。うまくノせてくれれば、泣ける映画はこの上なく気持ちいい。ぼくも何カ所かで泣いたよ。でもそれは神木隆之介の演技ではなく、知らない役者が「誰かが船を動かさなきゃなんないなら、やってやろうぜ!」といった途端、ウォーと有志らが呼応するシーン。あるいは漁船が群れとなって軍艦を助けに来るシーン。ザ・ベタ・オブ・ベタなのにすごくエモい。
 ここで神木隆之介や佐々木蔵之介が音頭をとっていたら、ぼくの涙腺は乾いたままだったと思う。シン・ゴジラで庵野が役者に演技をさせる暇を与えなかったのは、こういうことなんだよな。

 ここまであんまり褒めてないから、褒めポイントを挙げておくね。
 これまでのゴジラ映画のなかでこれほど主人公とゴジラが対峙した作品ってあっただろうか。むしろ終わってない戦争を終わらせるってメロドラマを成立させるためにゴジラが使われたフシさえある。
 この対立構図のおかげでドラマパートが浮かず、人間ドラマと特撮がお互いを際立たせてた。
 何よりこの文脈ならゴジラを太平洋に散っていった英霊の怨念と捉えることもできる。仲間を死なせて生き残ってしまった敷島との相性もバッチリだ。ゴジラが日本にやってくる理由が、生きて本土に戻れなかった戦没者の無念さだと感覚で理解できるのだ。

 思うに、山崎貴はシン・ゴジラの逆を狙ってた気がする。
 シン・ゴジラが陸戦なら−1.0は海戦、シン・ゴジラが官僚・自衛隊の戦いならこちらは民間人、シン・ゴジラが巨大ならこちらは小さく、シン・ゴジラが昔の劇伴音源をそのまま使うならこちらは新録ってな感じで、シンゴジを真似してるとは言わせないという気概というか、むしろ喧嘩をふっかけてるような逆アプローチ。それらがことごとく良い方に作用してたんだから(賛否あり。特に演技は除く)、山崎貴の手腕は高く評価していいと思う。ドラえもんやドラクエで酷い目に遭った人は、一旦過去の敵意や嫌悪を忘れてやってほしい。
 少なくとも彼はテレビと映画は絵のつくり方が違うってことはちゃんとわかってるよ。そこは評価しておきたい。
 進駐軍がどこにもいないとか、当時の歌謡曲がすんとも流れてないとか、本来は結構長いこと残ってたはずの戦後感が、ちっともないとかツッコむのはヤボというもの。そこまでデキる人ではないから、過度の期待はしないように。1954年のオリジナルには遠く及ばなくても、東宝チャンピオンまつりの作品群よりは、ずっといいはずだよ。

 ネタバレせずにレビューを書くとしたらここまでかな。他にも特筆すべきポイントは多々あるので、時間を置いてコメ欄に(ネタバレ全開で)追加していきます。
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