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それでも私は生きていくのKentFのレビュー・感想・評価

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)
3.8
哲学者だった父、書物は彼の魂。それを自宅に残して施設へ移る姿と対照的に、娘は成長痛を抱えながら、学びを重ねる。
その狭間にいる主人公サンドラ。
父の背中に生きることへの絶望を感じ、娘の眼差しに生きることへの希望を覚える。人は成長し、朽ちていく。その意味に戸惑いながら、恋人との成就し難い逢瀬を生々しい欲求のままに重ねる。村上春樹のような世界。
モラルという言葉では片付けられない。生きるとは、結局、自身にかけるイリュージョンの繰り返しかもしれない。サンタクロースを迎える親たちの道化も、根底では同じことなのかもしれない。

あれがエッフェル塔、あっちはモンパルナスタワー、うちはこの方角。そんな瑞々しい発見は、もう得られない。それでも、私は。
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