とうがらし

Joyland(原題)のとうがらしのレビュー・感想・評価

Joyland(原題)(2022年製作の映画)
3.9
2022年カンヌ国際映画祭 ある視点部門 審査員賞、クィア・パルム賞 受賞
2023年アカデミー賞 国際長編映画賞部門 パキスタン代表

中流家庭ラナ家の次男ハイダーは、男らしくと厳しくしつけられ、妻との間に、男児の誕生が期待されている。
しかし、仕事を探す中で、トランスジェンダーのダンサーと出会い、彼女のバックダンサーとして練習参加しているうちに、自分の奥底に眠っていた感情に気づいて、恋に落ちる。
一方、妻は、ラナ家の厳格な家父長制に息苦しさを感じ、自分らしさに求めて嫁いだはずなのに…と、理想と現実の狭間で苦悩している。
抑圧からの解放と悲哀の物語。

サイム・サディック監督の長編デビュー作。
パキスタン国内で上映禁止の騒動が起こったが、国際舞台で初めてづくしの快挙を成し遂げているパキスタン映画。
鑑賞後、しばらく放心状態になった。
誰が良いとか、悪いとか、安易に判断することがおこがましく、複雑な感情が沸き起こって、言葉を紡ぐのも難しい。

カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション(コンペ部門とある視点部門)に、パキスタン映画として初めて出品を成し遂げ、ある視点部門で、グランプリの次(次点)に相当する審査員賞と、LGBTをテーマにした作品に与えられるクィア・パルム賞をW受賞した。
特に、クィア・パルム賞の受賞作品は、年々注目度が高まっている。

歴代のクィア・パルム賞受賞作品は…
・セリーヌ・シアマ監督「燃ゆる女の肖像」
・ルーカス・ドン監督「Girl/ガール」
・トッド・ヘインズ監督「キャロル」
・マシュー・ウォーカス監督「パレードへようこそ」
・グザヴィエ・ドラン監督「わたしはロランス」
などフィルマークスでも軒並み高評価を得ている。
本作も、これらと遜色ない程、素晴らしい作品だった。


また今月21日に発表された、2023年アカデミー賞 国際長編映画賞部門のショートリスト15作品にも選出された。
こちらもパキスタン映画として初。
カンヌに続き、アカデミー賞でも快進撃が続いている。
なお、同年のある視点部門でスペシャル・メンションを受賞した、日本代表の「PLAN75」は、残念ながらショートリスト落選。

【国際長編映画賞 ショートリスト】
「アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~」アルゼンチン代表
「Corsage」オーストリア代表
「Close」ベルギー代表
「ソウルに帰る」カンボジア代表
「Holy Spider」デンマーク代表
「Saint Omer」フランス代表
「西部戦線異状なし」ドイツ代表
「エンドロールのつづき」インド代表
「The Quiet Girl」アイルランド代表 ※フィルマークス未登録
「バルド、偽りの記録と一握りの真実」メキシコ代表
「The Blue Caftan」モロッコ代表
「Joyland」パキスタン代表
「EO」ポーランド代表
「別れる決心」韓国代表
「Cairo Conspiracy」スウェーデン代表 ※フィルマークスでは「Boy from Heaven」で登録

国際長編映画賞部門のノミネート枠では、ここからさらに5作品に絞られる。
ノミネート筆頭候補は、パク・チャヌク監督の「別れる決心」
本作は、まだ知名度が低く、厳しい状況にある。
しかし近年、多様性が求められるアカデミー賞。
その傾向からして、映画産業規模の小さい国の映画が逆に残ることも多く、「ブータン 山の教室」(ブータン)や「皮膚を売った男」(チュニジア)、「ハニーランド 永遠の谷」(北マケドニア)のように、ノミネートされる可能性は大いにある。

予告編
https://www.youtube.com/watch?v=gy9bNgbZMJI
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