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オットーという男のCureTochanのレビュー・感想・評価

オットーという男(2022年製作の映画)
4.0
出てくる猫が綺麗。

通称エブエブ、EEAAOでダメージを受けた家内の口直しに、明らかにわかりやすい本作をミニシアターで観てきた。この「予告編でだいたいわかる」感じ、ジャンルはかなり違えど、先月に鑑賞した"Fall"と同じである。わかっている人の心を、それでも動かすのがプロの仕事だ。今回も、何度もロケット打ち上げに成功しているアメリカ合衆国の、プロジェクトを成功させる経験値に降参し、家内も私も満足して晩飯を食いに行けた。

後で気づいたんだけど、エブエブは映像と音楽に体を任せるという鑑賞法が可能だった。実際に背景として絶えず音楽が流れていた。本作もそうで、ある山場のところだけ音楽がイマイチだったんだけど、総体的に良かった。音楽ができない国には、良い映画も作れないと思うのである。役者たちの芝居に関しては、なんなら本作のほうが、まったく抜かりなく素晴らしい。特にヒロイン級のラテン人妻、近所の黒人マダム。トランスジェンダーのマルコム。演出も、基本は同じだ。だが同じ技術を使って出来上がったものは、かたやハチャメチャSFコメディ、かたや芝居がかってないリアル系人情噺。

話はそれるが、終盤の病院で拡張型心筋症の話になり、ヒロインが笑ったり主人公が焦ったりするシーンで、シアターが誰も笑ってなくて不安になった。エブエブも、あんな静寂のなかで日本人が観ていたことを、オリジナルの制作陣に伝えたほうがいいと思う。こうなったらアメリカ本国の方で、吹き替えのクオリティをなんとか手当てするしかない。日本人が洋画を観ないってニュースにもなってたし。ハイブリッドだからぶつけてもいいは草・・でも笑ってるの俺だけ?笑えるシーンとしてYoutubeにも上がっている。おかしいシーンは、みんなで笑うともっとおかしい。アベンジャーズエンドゲームの字幕は外人だらけで楽しかった・・

今回のトム・ハンクスは「めぐり逢えたら」の高齢バージョンだった。この人は「ビッグ」で子供が大人になっても、「フォレスト・ガンプ」で知的障害者になっても、また普通の大人になっても、トム・ハンクスには見えるんだけど、同じ人には見えない。いろんな演技の工夫のあとがみられる。ただ善良には見えてしまうという限界があるので、主役が適しているというわけなのだ。そういや彼の息子が出ているということは知ってたんだけど、回想シーンのオットーがそうだったというのは、劇場を出てから家内に言われて気が付いた。息子の芝居も、ちゃんとしてたということだろう。

モチーフとしては「カールじいさん」と同じだし、藤沢周平の小説でいうと「盗む子供」(「よろずや平四郎活人剣」3話)ということになる。藤沢周平と同じように、きっかけになるのは「怒り」だった。アドレナリンで、老人は壮年に戻る。このあたりも、ドラマチックにしすぎないところが良かった。

「プーと大人になった僕」の監督が、また同じようなストーリーをやってるわけだが、プロデューサーのトム・ハンクスが彼を選んだという格好だろうか。主人公の生き方が変わった瞬間の爽快な感じを、誇張しすぎずアッサリと、でもしっかり表現していて今回もセンスがよかった。

本作はリメークらしいが、元の国の言葉だと私はわからないから字幕頼みになる。本作の字幕はなかなかうまく訳せていたし、簡単なストーリーなので理解できないシーンはあまりないと思うが、ただ笑えるセリフが字幕になっても笑えるとは限らない。それこそが、英語圏の人にとってハリウッドでリメークする意味なのだ。英語のセリフがわからないのであれば元の映画だけ観ていれば良いことになるし、イギリス映画はハリウッドリメークされない。

現に、漫才を文字に書き起こしたものを最初に読みたがる人はいないのである。たとえば犬を散歩させてる若い女との二度目の会話で、彼女に言う最低の無礼な言い草は最高だった(でも最後にちらっと出てきたということは・・)。
このあたりは、日本版の予告編を本国のそれと比較してみるとよくわかる。日本語版でカットされているのは、字幕では伝わりにくいからそうなっているのだ。面白いセリフを予告に入れるに決まってるんだから。
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