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クリード 過去の逆襲のsanbonのレビュー・感想・評価

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.6
戦う動機が利己的過ぎ。

「ロッキー」サーガ最大の死闘やら、満足度驚異の96%やら、やたらと"着飾っている"なあと思ったら、こういう事でしたか。

過去2作は、近代スポーツ映画の急先鋒としてクオリティも高く、なにより王道ながら胸を熱くさせる物語に惹かれるものがあったのだが、シリーズ完結作にしてここまで面白くなくなるとは、痛烈に残念で致し方ない。

そもそも、今作は前2作とは描き出しているものが違い過ぎる。

前作までは、どちらともどん底から這い上がる姿を情熱的に描いていた。

様々なしがらみ、思い通りにならない現実、心も体もボロボロに打ち砕くような挫折、それらをそれでも振り払い、拳を振り抜いたその先にある栄光を掴みとるその姿に、湧き上がるような感動を与える素晴らしい作品だった。

ところが、今作はというと「クリード」が引退するところから物語が始まり、一線を退いた成功者として描かれるから泥臭さが無いし、今回襲いくる敵も過去に自分が犯した過ちのツケが回ってきたという展開。

しかも、その敵は自分がリングに立つ為には手段を選ばなかったり、ラフプレーが目立ったりは確かにするが、基本は弛まぬ努力に裏打ちされた確固たる実力の持ち主であり、今作ではどこかこの敵役である「デイミアン」の方が、何も持たないまま全てを賭けている分、前作までのクリードのようなポジションにすら感じる程である。

一方、主人公であるクリードに関しては、今作における葛藤が何もない。

あるのは、デイミアンに対する引け目と、大事に育成していた選手を壊され、王座を奪回された事による逆恨みにも似た怒りの感情だけだ。

サブタイトルの通り「過去の逆襲」を成し遂げられ、それが許せなくて再びリングに立つ事を決意するとか、ちょっとした小物のようでもある。

(過去の俺のせいだけど)ムショ上がりで行くあてもないところを拾ってやったのに。

(俺が奪ったも同然だけど)プロボクサーになりたい夢を応援してやったのに。

(今まで知らぬ存ぜぬを貫き通してきたけど)いきなり現れたお前を暖かく迎えてやったのに。

俺の計画を台無しにしてめちゃくちゃにしやがって、そんなの絶対に認めないからそのベルトは返してもらうぞ。

大枠上のストーリーはもちろんこんなではないが、根本はこれと同じような事をやっているのだ。

こんな自分本位な考えでリングに立たれても、泣けないどころか熱くすらなれなかった。

というより、一番の盛り上がりどころであるデイミアンとの対戦のくだりで、あろうことか瞼が重くすらなってしまった。

しかも、気付けばいきなり14Rまで場面が飛んでいて、知らぬ間に眠気に負けて気絶したのかと一瞬錯覚してしまう程だった。

今思えば、その場面が一番ドキッとしたなぁ。

前作にあったような「ビアンカ」の難聴や、それを受け継いでしまった娘のような、家族にふりかかる試練さえもなにもないし、なにより「ロッキー」がロの字でさえ登場せず、まるで無関係な映画のような振る舞いを続ける様子は、非常に奇妙かつ冷めるに余りある改悪としか言いようがなかった。

前作までのいいところを全部取っ払って、似た様な雰囲気で作った別物を観させられてるような違和感。

これを観て満足度が96%って、エンタメコンテンツを全て規制された国の人にでも観せたんか??

いや、悪いところばかりではなかったのだが、前作からの落差があまりに激しいのと、実際は威勢がいいだけだった自信過剰な宣伝文句のせいで、期待からの失望度合いがデカ過ぎて、最後は不満しか残らなかった。

そして、それに追い打ちをかける最後の謎アニメ。

チケットに特別映像と書いてあったから、てっきりロッキーサーガをダイジェストで楽しめるのかなとか思っていたら、まさかの意味不明なアニメですよ。

余韻もへったくれもない。

何が始まったのか理解出来ず、これがプロモーションなのかなんなのかさえ分からず、ただただ困惑させるだけのアニメを最後に流して、一体僕に何をしてほしかったんだろう。
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