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零落のkuuのレビュー・感想・評価

零落(2023年製作の映画)
3.5
『零落』
映倫区分 PG12
製作年 2022年。上映時間 128分。
『ソラニン』『おやすみプンプン』などで知られる漫画家・浅野いにおが漫画家の残酷なまでの業を描いた同名コミックを、俳優のみならず映画監督としても活躍する竹中直人のメガホンで実写映画化。

8年間連載してきた漫画が完結し“元”売れっ子漫画家となった深澤は、次回作のアイデアが浮かばず敗北感を募らせている。
すれ違いが生じていた妻のぞみとの関係も冷え切り、自堕落で鬱屈した日々を過ごしていた。
そんなある日、風俗店を訪れた彼は、猫のような眼をしたミステリアスな女性ちふゆに出会う。
自分のことを詮索しないちふゆにひかれた深澤は、ちふゆとともに彼女の故郷へ行くことになるが……。

町の小劇場にて視聴。

今作品は、一人の男の中年の危機を題材に、我々が築いてきた社会の偽善的な本質を探る作品と云えるかな。
また、一面では、理想と現実の衝突を描いている。
深澤薫は自分自身を高尚な芸術家だと信じている。
他の人気クリエイターのような下世話で独創性のない迎合的な作品ではなく、目の肥えた読者のためのマンガを作ったのだと。
彼の連載が続くにつれて多少売り上げが落ちたとしても、それはステップだと。
しかし、連載が終わるやいなや、彼の重要性と悪評は一気に色あせてしまう。
薫は、自分がアートと伝えたいストーリーに集中している間は、自分一人しかその中にいないことに気づかなかった。
他の誰もが基本的に私利私欲のためにそこにいる。
彼のアシスタントたちは、いつか自分たちのマンガを出版するための影響力とコネを手に入れたいと願い、彼の汚らしい生活やお粗末なマネージメントを我慢して履歴書に書き込んでいる。
一方、編集者と出版社は金のことしか考えていない。
編集者も出版社も、彼が新しい章を書き上げなくなると、すぐに次の章に移り、他の金儲けに時間を費やす。
これは、クリエイターの視点から見たマンガ業界を貶めるもの。
大衆にアピールすることが業界の主な原動力である以上、新しく創造的なニッチストーリーに居場所はない。
だから、薫がマンネリ化し、いつまでたっても新作を発表できないことが明らかになったとき、脇に追いやられる薫に共感するのは簡単。
しかし、映画が進むにつれて、何が起きているのかがより深いレベルで明らかになる。
それは、彼の理想が6千億円規模(2年前の統計しか見当たりませんでした🙇)の漫画業界の厳しい現実にぶつかっているだけではないということ。
エゴそのもの。
薫は自分が他の漫画家よりも優れていると考えている。
彼がいとも簡単に脇に追いやられるのは、その事実に唾を吐くようなものだ。
薫が望んでいるのは、無条件に愛されること。
しかし、親友であれ妻であれ、彼が困ったときに相談する人は皆、同じように自分の生活に追われていて、彼が切望するものを与えてくれない。
彼はすぐに、自分がスパイラルに陥っている間、平常心を保ち続けているために失敗したのだと皆を責める。
しかし同時に、彼は自分の目に余る問題に気づくことができない。
彼の人生における出来事から彼が得たものは、恋愛やプラトニックな愛は無条件のものではなく、取引上のものだということ。
妻が仕事を優先するのは、彼が妻や妻の人生に関心を示さないからにほかならない。
一方、彼が定期的に会っているデリヘル嬢は、彼がお金を払い続ける間、恋人のふりをして彼を溺愛することしか望んでいない。
職場で彼に媚びへつらう人たちは皆、彼が仕事上の関係をもたらしてくれるからそうしているだけ。
従って、薫が周囲から愛を得る唯一の方法は、売れっ子漫画を書いている最中に得た愛を得ること。
問題は、果たして彼にそれができるかどうか。
今作品の悲観的な性格を考えれば、観るのが難しいのも当然かもしれない。
薫は好感の持てるキャラとはほど遠く、熾烈なマンガ業界のありのままの姿には、控えめに云ってもがっかりさせられる。
しかし、竹中直人の見事な演出がなければ、この映画のインパクトは半減していたと思う。
この映画には芸術的な迫力と独創的なショットが満載で、筋書きの多くはセリフやナレーションではなく、ビジュアルストーリーテリングで伝えられている。
また、BGMがほとんどないし、映像の臨場感が増し、常に不安感に包まれる。
結局のところ、今作品は漫画の実写化としては悪くない作品でした。
原作に一コマ一コマ合わせようとする罠に陥ることもなく、かといって重要な筋書きを無謀にも捨ててしまうほど物事を変えることもない。
伝えたいストーリーを視覚的に創造的な方法で容赦なく伝えていた。
マンガ業界の暗部やマンガ家が直面する苦悩に興味がある人には、一見の価値があることは間違いない。
斎藤工が主演を務めるが、なんかの記事に圧倒的な“孤独”の中で“色気”を放つ斎藤工という稀有な存在とありピッタリな表現でした。
趣里がちふゆって、趣里はこちら方面の役ばかりしてたら水谷豊は切れるんちゃうアララララ。
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