ごんす

あしたの少女のごんすのレビュー・感想・評価

あしたの少女(2022年製作の映画)
4.5
本作と同じくぺ・ドゥナが刑事役をしているチョン・ジュリ監督の過去作『私の少女』も素晴らしい映画だと思ったけど登場する悪党が死んでほしいというレベルだったので主人公達が悪党と対峙するエンタメに感じる所もあった。
勿論それが悪いわけではないけれどそれまで役者の演技含めた映像表現に没入してきたわりには観賞後にちょっと距離を感じてしまったので本作はどうかなと少し不安もあったが逆に本作の方が観賞後もこの映画のことを考えたいという気持ちになった。

コールセンターの実習生として働くことになる高校生のソヒがスマホでダンスの自撮りをしている所から映画が始まる。
韓国で起きた実在の事件を基に作られているので労働搾取の描写に胸糞悪くなるのは予想していたが思った以上に身近な日常にある地獄といった感じで落ち込む展開が続く。

生徒を送り出す実習先として信頼できる会社か調べているのか、なぜ学校側もここまで就職率にしかこだわらないのか、
もっと成熟した大人でも耐え難い環境の職場を何故早く辞めないのか…この映画を観るとその理由付けがどれもいちいち身に覚えがあり苦しい。
若者達が勝手に大人の世界に引きずり込まれとりあえずそこに適応させる、できないものは落ちこぼれていくという構造は韓国だけではなく日本でも置き換えられる。

自分が一番観ていて辛いと思ったのは自身の動画配信をしているソヒの友達。
彼女が配信している動画に対する誹謗中傷のコメント。
おそらく登録者数も多くない何者でもない彼女がチキンを食べながら他愛のないことを喋るだけと思われる動画に対しておぞましい言葉達が飛び込んでくる。
「嫌なら見なければいいでしょ」と彼女は言い返すが自分より強くないものが目立つと潰したくなる人間の本能的なものが可視化されてしまっているような気がして本当にきつい。

ぺ・ドゥナが演じる刑事ユジンが『わたしの少女』と同じく本作でも正義感が強くキャラクター自体も似ているように思った。
何故今回も同じ俳優を起用し少し似たような特性のある刑事なのかなと思ったが
ぺ・ドゥナは監督に「同じ人物なのですか」と聞いたそう。
しかし監督は同じ人物なら名前も同じにしたと思うのでやはり違う人物だと思うとのこと。

確かにより本作の刑事ユジンは正義感が強く、ここまで一つの事件に真摯に向き合ってくれる刑事っていないんじゃないかと思ってしまう。
実際に事件を追求した人物はジャーナリストだが映画では刑事に置き換えられている。
インタビューを読むと監督が警察や公職に就く人に求める願いや問いかけのようなものが映画に反映されているらしい。
それを体現してみせたぺ・ドゥナはやはり凄い。

この刑事ユジンが登場するのは後半のパートから。
観ているものは少女ソヒを知っているがもう一度ユジンの捜査とともに彼女を知っていくような構成は効果的に感じた。
この監督はお酒の描写が優れているのではないかと勝手に着目していたけれど今回も小道具として効いている。
誰がどのように呑んでいるか、呑むとどうなるかなどなど。
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