マインド亀

梟ーフクロウーのマインド亀のレビュー・感想・評価

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
4.5
リュ・ジュンヨルを堪能できる118分!暗闇に目を見開け!

●個人的に思い入れのある韓国ドラマ『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜恋のスケッチ〜応答せよ1988〜』で、パク・ポゴムとヘリとの三角関係を演じたリュ・ジュンヨルが、歳を重ねて本当にいい役者になったなあとしみじみ感じることのできた作品でした。(ちなみにリュ・ジュンヨルとヘリは最近、7年間の公開恋愛の幕を閉じたそうな。)
もちろん本作ではユ・ヘジンやパク・ミョンフンの怪演も語られるところではございますが、主役のリュ・ジュンヨルはやっぱり良かった。ネタバレなので多くは言えませんが、盲目に関する最大のトリックであるあの2面性を切り替える演技が素晴らしかった。これはまさに「特殊能力」と言っても良い能力(本来は障害)なんですけど、この2面性のある能力によってフィジカルな演技をちゃんと切り替えられているし、また、決して「声」をあげてはいけない日陰の人間であるべきだという現実的な思考と「声」をあげては巨悪と戦うべきだという正しい心との狭間に揺れる2面性をきっちりと演じきっておりました。
『恋のスケッチ』の時には、つり上がった目と分厚い唇で、決して美形とは思わなかったのですが、一方でこれがまた角度や表情によっては少年っぽい顔つきや色っぽい顔つきをしていて、なかなか浮世離れした王子感がありました。
今作ではグッと大人になり髭を蓄え、人間味と深みが増しましたね。今回は盲目の鍼師を演じるために目での演技ができない中で、セリフに頼らない感情の表現が素晴らしかったと思います。

●本作は実際にあった歴史の事件の裏で、架空の主人公を活躍させる宮廷サスペンス。こういうのをファクションというらしいですね。政略によるドロドロの血縁関係の中で主人公が正義に目覚め、その悪行をどう暴いていくか、という縦線に、どうやってこの宮廷でサバイブしていくかという横線が紡がれます。しかしながら、公式サイトのどなたかのコメントにあるような、「推理が二転三転するサスペンス」というのはありません。推理なんつーものは出てきませんから。黒幕はハッキリとわかってますから。てきとーなコメント書くんじゃない!
宮廷という閉鎖された舞台で、その闇に気づいた盲目の彼が、とことん追い込まれ、窮地に立たされたとき、どうやってその状況に対処していくか、そしてどういう生き様を選択するか、というところに最高のサスペンスが発生しているのです。込み入った人間関係、説明しすぎないセリフ回し、そして主人公があっちにこっちに呼び出される複雑な状態が続くにもかかわらず、物語の構造はシンプルで力強い。過不足が全く無い見事な脚本ですね。
そして単純に巨悪に立ち向かう主人公が孤軍奮闘する王道の物語。国民を騙しながら、未来を見渡さず、権力にしがみつくだけの政治の闇に対して、目を見開いて声を上げるのか、という普遍的なテーマが描き出されているところが熱い。このカタルシスに燃えないわけがない。
確かに結末にはツッコミを入れてしまう部分があるのも事実。観客の望みの結末を無理やりねじ込んでしまったのかな。確かにこれがもし別の結末であれば、くらーい話で終わってたかもしれないですし…なかなか悩ましいところではあります。

●本作は闇と光が重要なメインテーマになるため、夜の暗闇のライティング設定が絶妙。月光だけを頼りにしたリアルに暗い闇を適確に再現しています。そしてASMRのような、生活音を際立つようにした音響設計。これこそ映画館で観るために計算された作品だと思いますので、是非映画館での鑑賞をおすすめします。
惜しむらくは、まるで『サンゲリア』とか『マリグナント 狂暴な悪夢』みたいなホラー作品かよ!って感じのポスタービジュアル。確かにこのシーンは出てきますが、そんなにフィーチャーするほどのところでもないし、話の内容を勘違いさせてしまう部分もあるから、ちょっと残念。でも普通の宮廷歴史モノみたいポスターでも行かないかもなあ…
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