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ウィッシュのろのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
5.0

「美女と野獣」のベルはたった一人で村人たちの敵意に立ち向かった。
「ポカホンタス」だって「ムーラン」だって、逆境に向かうヒロインはいつも一人だった。
でも「ウィッシュ」のアーシャはちがう。
「ロードオブザリング」のサルマンに吹き飛ばされるフロドのように、吹きっさらしの塔の端に追いやられたアーシャは、緑色の光に縛り付けられ苦しむ国民たちに呼びかける。「私たち一人一人が”スター”なのよ」
主人公一人の力で王国を救うのではなく、心に”スター”を秘めた王国のみんなが手を取るクライマックス。震えるほど感動した。私だけ地震がきたのかと思うほど体が震えて涙が止まらなかった。

この物語のいいところは、魔法使いの王だけが悪者ではないところだと思う。
自分の願いを叶えてほしいと王に託し、託すことでそもそも自分がどんな願いを抱いていたのか忘れてしまった人々。
神社で祈るだけでは受験に合格できない。
不摂生していても病院にさえ通っていれば病気が治る、なんてことはない。
人任せにしたのは自分たちなのになぜ叶えてくれないのかと他人を責めるのも、次は自分の願いを叶えてくれるかもと誰かに期待するのも違う。

本当に大切なら託すのではなく自分で守らないと。
誰かに叶えてもらうのではなく、まずはやってみないと。
星ははるか遠くにあるわけじゃない。私たち一人一人が願いという名の”スター”なのだから。

忘れ去っていた願いを取り戻した国民たちはいきいきと輝きだす。
同じような願いを持つもの同士が集い、思い描いていた願い以上の現実を手に入れる人も出てくる。
一度は王に握りつぶされ、悪のパワーになってしまったみんなの願い。
願い続けてこそ輝き続ける”スター”は、星に祈らなくてもそれぞれの心の中にあるのだというラストシーンに勇気づけられる。


( ..)φ

楽しみにしていた「ウィッシュ」。
公開初日に休みを取って行ってきました。

白雪姫やポカホンタス、眠れる森の美女を彷彿させる森の中には、不思議の国のアリスのように話す草花がいて、いつも明るい声でアーシャを見送る。
ふんわりとした輪郭の少し古風な作画もすごく好みだったし、映像と合わせて聴く主題歌が本当に素晴らしくて、クライマックスだけでなくどのシーンも涙が滲んだ。

船で世界を巡りたい。鳥たちと一緒に空を飛んでみたい。
心の底から生まれた素朴な願いには、それぞれ持ち主の顔が浮かんでいる。そんな願いの結晶を握りつぶす瞬間の、強烈な切なさ。握りつぶされた願いの持ち主たちは「なんだか急に悲しくなってきた」と倒れこんでしまう・・・
アンデルセンやグリムのような容赦のない描写が衝撃的に残酷ですごく好きだった。
ろ