くりふ

亡霊の堆積のくりふのレビュー・感想・評価

亡霊の堆積(2021年製作の映画)
3.5
【ヴァーチャルチャイナに踊らされ】

IFF2022『東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション2』上映にて。

これは、豊かなのに空疎な素材が面白く、その素材を使い素直に実験してみた映画ですね。

エラ・ライデル監督の素性は知りませんが、台湾映画として、中国の建設ラッシュへの懐疑的視点からつくられています。両国のキナ臭い関係も、視線に反映しているのだろうか?

ひと気ない場所に聳える、なんちゃってエッフェル塔…。寒々としたニュータウン、広廈天都城の点描で始まる本作、前半を牽引する“台詞”は、不動産屋が描く脚本通りの“営業トーク”。一見、豪華美麗…しかし綻びを隠せない、新製品無人街に寒々響く、儲けのはなし。

“最寄駅がない”のに開発が進む、“グリーンバックの街”CMを演じる役者をブリッジにして、次は“決まったのに取り壊されない”古いホテルを舞台とした“物語”にシフトする。

ホントの舞台にウソの人物を置き、虚実溶け合う物語で泳がせたらどうなるか?…わかり易い実験で、そこからの素直な響き方は悪くないな、と、ほどほどに心地よかった。

最後には、もうこうするしかないな、と投げやりアクションも始まりますが、まるで『母なる証明』のヒロインのようでした。この“物語”に着“地”なんて永遠に?…ない。かの地で過剰に作っちゃ壊し…が続く限り、映画の実験は尽きないのでしょう。

巨大開発のスケール感に、眼は楽しめますが、伴って膨らみゆくヴァーチャル感に、心は冷めてゆきます。こんな場所に迷い込んだ個人は、そりゃ正体を失ってゆくよね…という当たり前に出る溜息が、個人的に置きたくなった、本作のピリオド。

<2022.9.20記>
くりふ

くりふ